30・31日で井上尚、内山ら世界戦7つ=12月のボクシング興行見どころ

船橋真二郎

井上尚がプロ8戦目で立ち向かう大きな壁

プロ8戦目で2階級制覇をかけて、世界屈指の技巧派王者オマール・ナルバエスに挑戦する井上尚(写真左)。弟・拓真も世界王者ナルバエスの弟であるネストールとの兄弟マッチに臨む 【船橋真二郎】

「すごい時代になりましたね」
 ワタナベジムの新ジムのお披露目を兼ね、25日に行われた公開練習の際に内山高志(ワタナベ)が思わずもらしたように、これだけの世界戦が集中開催されることは過去、国内では例がない。12月30日、31日に東京と大阪で計7つ。大阪の興行で現在交渉中と言われるもうひとつが加われば最大8つ。いずれにしても2012年の大みそかの5つを超えることになる。個人的にはもったいないと思ってしまうのだが、テレビの大みそかの特番として組まれるマルチ世界戦の開催も今年で4年目。これも時代の流れというべきか。

“年末の顔”と言えば、東の内山、西の井岡一翔(井岡)だったが、今年の最注目カードは井上尚弥(大橋)がオマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦するWBO世界スーパーフライ級タイトマッチになる。30日に東京・東京体育館で開催される『ボクシングフェス2014 SUPER BOXEO』の掉尾を飾る一戦は、日本のワンダーボーイと軽量級屈指の技巧を誇る歴戦の王者という構図。井上はプロキャリア8戦目(7戦全勝6KO)で、とてつもなく大きな壁に立ち向かうことになった。

 ナルバエスは現在16連続防衛中。WBOフライ級王者時代の11度を合わせれば、通算27度もの防衛記録を持つ。世界戦だけで30戦というキャリアに加え、アトランタ(1996年)、シドニー(2000年)と、2大会続けてオリンピックに出場し、世界選手権では銀と銅の2つのメダルを獲得するなど、輝かしくも巨大なアマチュア実績を残している。46戦(43勝23KO1敗2分)のキャリアで唯一、敗れているのは11年10月、後の5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)のバンタム級王座に挑んだ一戦のみ(判定負け)で、39歳の今も熟成された技巧に陰りは見られない。

5階級制覇王者ドネアからも攻略法伝授

八重樫は1階級下げてライトフライ級で3階級制覇を狙う。また、井上兄弟と並んで大橋ジムのホープ・松本亮はIBF世界ランカーと対戦する 【船橋真二郎】

 21歳になる4日前の今年4月に6戦目でWBC世界ライトフライ級王者となり、9月に初防衛にも成功した井上はベルトを返上。一気に2階級上げての挑戦になるが「スーパーフライ級が自分の適正階級」と言う。試合直前は体重を落とすことで手一杯だったライトフライ級時代と違い、「最後まで動けるので楽しみ」と万全のコンディションで臨めることを歓迎している。井上の能力がどれだけ発揮されるのかと楽しみな一方、スーパーフライ級のパンチに対する耐性の面で不安は残るが、ナルバエスをはっきり上回るのがスピードだ。「ディフェンスが鉄壁というイメージ」の王者に対し、スピードを最大限に生かした“打たせずに打つ”井上のボクシングを存分に体現したいところである。

 発表会見が行われた5日の時点では「ガードが固いので、ボディで倒すのが理想」と話していた井上だが、24日には来日していたドネアからナルバエス攻略法を直接アドバイスされ、イメージを膨らませている。勝つだけでも大変なことだが、もし難攻不落のナルバエスを完全に崩すことができたら、これはもうとんでもない快挙ということになる。

八重樫、リナレスがそれぞれ3階級制覇かける

リナレスは3階級制覇の懸かるWBC世界ライト級王座決定戦に、村田はアメリカ人ボクサーとのプロ6戦目に出場する 【船橋真二郎】

 30日の東京体育館では、八重樫東(大橋)とホルヘ・リナレス(帝拳)がそれぞれ3階級制覇の懸かる王座決定戦に臨む。9月にローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との激闘に敗れた前WBC世界フライ級王者の八重樫は、井上が返上したWBCライトフライ級王座の獲得を目指す。ポイントはミニマム級から2階級上げて、一度フライ級の体をつくってから、また1階級下げることだが「過去の数々の名選手でも上げて下げて失敗した例は多い。だからこそ、獲れれば達成感があると思う」と、モチベーションのひとつに変えるところが八重樫らしい。対戦相手で同級1位のペドロ・ゲバラ(メキシコ)は「ボディワークよりステップとガードでよけて、距離をキープする選手。長身で、崩しにくいタイプだと思うが、そこを崩していかないと勝利は遠のく。今年は1勝1敗。勝利で締め括って、いい年にしたい」と抱負を語った。

 現在、WBC世界ライト級1位のリナレスは同級2位のハビエル・プリエト(メキシコ)とのWBC世界ライト級王座決定戦に臨む。ベネズエラから来日し、17歳でデビュー。プロボクサーとして育った日本は「私の国であり、私のホーム」とリナレスは言う。フェザー級(WBC)はラスベガス、スーパーフェザー級(WBA)はパナマで獲得しており、世界王座に挑む試合を日本で迎えるのは初めて。唯一の日本での防衛戦で、まさかの1ラウンドTKO負けを喫しているリナレスは「日本に対し、勝利の約束を果たす気持ちでリングに上がる」と11年10月以来、2度目のチャンスでの3階級制覇を誓った。

 他にも、ロンドン五輪金メダリストで現在はWBC世界ミドル級8位の村田諒太(帝拳)のジェシー・ニックロウ(アメリカ)とのプロ6戦目、井上尚弥の弟でWBA世界ライトフライ級6位の井上拓真(大橋)と、オマール・ナルバエスの弟で12年11月、五十嵐俊幸(帝拳)のWBC世界フライ級王座に挑戦したネストール・ナルバエス(アルゼンチン)との兄弟対決、井上尚弥とは同学年で、9月に元世界王者のデンカオセーン・カオウィチット(タイ)に2ラウンドKOで快勝したWBA世界スーパーフライ級10位の松本亮(大橋)と、IBF同級8位のルサリ・サモール(タイ)の世界ランカー対決と、豪華ラインアップが揃う30日の興行はフジテレビ系列で中継される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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