大会日程に水をさされた準決勝 天皇杯漫遊記2014 G大阪vs.清水

宇都宮徹壱

違和感を覚えた試合会場と開催時期

準決勝の試合会場となった東京・味スタ。この日はなぜか紫色にライトアップされていた 【宇都宮徹壱】

 今年最後の3連休が終わり、師走の足音が聞こえ始めた11月26日、天皇杯の準決勝が東京・味の素スタジアムと大阪・ヤンマースタジアム長居で開催された。カードは、味スタがガンバ大阪vs.清水エスパルスのJ1対決、長居がジェフユナイテッド千葉vs.モンテディオ山形のJ2対決である。今回は味スタでの試合を取材することにしたのだが、何やらこの準決勝が自分の中でどうにもしっくりこない。違和感の理由は、試合会場と開催時期にあった。

 まず試合会場。今回のカードが決まった時、「なぜ逆にしないんだろう」と思ったサッカーファンは少なくなかったはずだ。G大阪のサポーターなら長居のほうが絶対的にアクセスしやすいだろうし、千葉や山形もサポーターの移動距離を考えるなら関東で試合をしてほしかったはずだ。

 実は似たような非合理な話は、過去にもあった。2002年の準決勝ではジェフ市原(現千葉)vs.鹿島アントラーズが長居で、そして京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)vs.サンフレッチェ広島が埼玉スタジアムで行われたのである。もっともこの時は、準々決勝から準決勝まで3日間しかなかった点は留意すべきであろう。それと比べて今回は、準決勝のカードが決まってから1カ月以上あったのだから、試合会場を入れ替えるくらいの柔軟さが主催者側にあってもよかったように思う。

 もうひとつはタイミング。来年1月に開催されるアジアカップの影響で、今大会が前倒しで行われていることについては当連載でも何度も触れている。これまでは「平日夜は集客が厳しい」とか「ヤマザキナビスコカップと混同する」といったことを指摘してきたが、シーズンが終盤を迎えたこの時期に準決勝が行われるのは、当該チームに対して「選択と集中」という切実な問題を突きつけることとなった。

 J1では、G大阪が9年ぶりのリーグ優勝を目指して浦和レッズとデッドヒートを繰り広げているし、対する清水は残留争いの只中にある。一方J2は、先週にレギュラーシーズンが終了したが、まだJ1昇格プレーオフが控えており、千葉と山形は10日後のファイナルで対戦する可能性がある。次の試合まで余裕がある千葉を除けば、他の3チームはそれぞれのプライオリティーを見据えながら、この準決勝に臨まなければならない。

 いずれにせよ今回の準決勝は、サポーターにとっては会場へのアクセスが難しく、チームにとっては残りのリーグ戦やプレーオフとの兼ね合いが悩みの種という中で行われる。それらが今日のゲームにどれほどの影響を与えるのか、非常に気になるところだ。

スターティングメンバーが対照的なG大阪と清水

G大阪は先制点を決めた宇佐美(写真左)をはじめ、遠藤、今野、パトリックといった主力選手が先発メンバーに名を連ねた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 キックオフ1時間前、メンバー表が配布される。G大阪のラインナップには「!」、清水については「?」というのが率直な印象。G大阪は、4日前の浦和との天王山と比べると3人しか変わっていない。GK東口順昭、MFの遠藤保仁と今野泰幸といった現役日本代表をはじめ、FWの宇佐美貴史とパトリックと、こちらは本気で勝ちにいくメンバーをそろえてきた。

 一方の清水はというと、先の名古屋戦に先発出場していたのは、GKの櫛引政敏とDFのヤコヴィッチのみ。他にレギュラーと言える選手は、MFの村田和哉と石毛秀樹くらいか。残りの7人は今季のリーグ戦出場が1桁の選手ばかり。FWの加賀美翔はゼロ。この日ゲームキャプテンに任命されたDFの高木純平とFWの金子翔太は、いずれも2試合出場しているが、合計プレー時間はそれぞれ14分と19分。高木善朗の9試合はこの中では多い方だが、今季は1試合で45分以上プレーしていない。つまりこの日の清水のメンバーは、およそベストとは言い難いものであり、明らかにリーグ戦を重視したためと言えよう。

 ここで前後のリーグ戦と照らし合わせながら、それぞれのラインナップの意図を考えてみることにしたい。G大阪は4日前の浦和戦で、ゲーム終盤の劇的な2ゴールで浦和に勝利している。これで首位浦和との勝ち点差はわずかに2。逆転優勝に望みをつなぐと同時に、00年の鹿島以来となる3冠(J1リーグ、ナビスコカップ、天皇杯優勝)達成に大きく前進した。しかしそのためには、リーグ戦の残り2試合、そして今日の準決勝での勝利は必須となる。週末のホームでのヴィッセル神戸戦までは中2日。確かに選手の疲労度は勘案すべきだが、ここでメンバーを大幅に替えてチームのバランスが崩れることを、長谷川健太監督は何より恐れたのではないか。

 一方の清水は、先の名古屋グランパス戦でどうしても勝ち切れず2−2の引き分け。順位は15位だが、16位(降格圏内)の大宮アルディージャとの勝ち点差は3しかない。次の相手は現在5位の柏レイソル、しかもアウェーである。ここで敗れて、16位に沈む可能性が否定できないことを考えれば、「選択と集中」という判断をせざるを得なかったのも大いに納得できる。

 両者の天皇杯での対戦成績についても触れておく。G大阪と清水の対戦は、過去に3回(01年、07年、10年)で清水の2勝(内1勝はPK戦)1敗。最後の対戦はやはり準決勝で、清水が3−0で勝利してG大阪の天皇杯3連覇の夢を打ち砕いている。この時、清水を率いていたのが長谷川監督であったのは、因縁話として面白い。冷たい雨が降りしきる中、空席の目立つ味スタにキックオフのホイッスルが鳴り響いた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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