大会日程に水をさされた準決勝 天皇杯漫遊記2014 G大阪vs.清水

宇都宮徹壱

清水の追撃にも動じなかったG大阪

遠藤(右)は、清水の追撃にも「まったく慌てることもなかった」と試合後にコメント 【写真は共同】

 先制点はやや意外な形から生まれた。前半9分、倉田秋のパスにパトリックがくさびに入り、最後は宇佐美がシュート。これをGK櫛引がキャッチ……と思ったら、ボールは彼のグローブから離れてそのままゴールインとなった。雨で濡れたボールが滑ったのか、それとも単なるミスだったのか、いずれにせよG大阪にとっては実にラッキーな形でのゴールであった。追加点は14分。遠藤の左CKに、パトリックが高い打点からのヘディングを繰り出して、豪快にゴールネットを揺さぶった。

 しかし清水もやられっぱなしではなかった。20分、相手のパスミスを奪った水谷拓磨がチャンスを作り、加賀美とのパス交換から金子がシュート。いったんはDFの足に当たるものの、こぼれ球を加賀美が反転してゴールに押し込む。さらにその4分後には、石毛が巧みなインターセプトから一気にドリブルで加速。いったんは今野のディフェンスに止められるも、すぐさま村田がボールを中央に運んでスルーパスを送り、最後は高木善が右足で同点ゴールを決める。その後も清水の勢いは止まらず、G大阪は我慢を強いられる時間帯が続いた。しかしこの状況でも、チームは冷静に対応していたと遠藤は語る。

「まったく慌てることもなかったですし、冷静に戦うことはできたと思います。もちろん2失点は不用意な、まったくいらない失点だったと思います。けれど、ミスは起こりうるものですし、1点先に取れば何の問題もないと思っていました」

 遠藤の言葉どおり、G大阪は37分にまたしてもパトリックのゴールで清水を突き放す。左MFの倉田からのピンポイントクロスに、今度は櫛引と三浦弦太が競ったが(櫛引は精いっぱい腕を伸ばしていた)、ボールはパトリックの頭を離れてゴールに吸い込まれていった。前半は3−2のスコアで終了。両チームがピッチをあとにする際、清水の加賀美と高木善が、互いのゴールをたたえ合うようにハイタッチする姿が見えた。1点をリードされたとはいえ「まだまだいける」という想いが彼らの中にはあったのだろう。

 5ゴールが飛び出した前半から一転、後半は引き締まった試合内容となる。清水は右からのクロスに、金子が2度のチャンスを迎えるが、いずれもゴールネットを揺さぶるには至らず。対するG大阪は後半27分、またも倉田のクロスをパトリックが落とし、走りこんできた宇佐美が見事なループシュートを決めて清水を突き放した。「GKの位置を見て、頭上を越して打てば入るなと思いました。1点目を決めていたので、リラックスして良い判断ができました」とは当人の弁。さらに後半40分には、途中出場のリンスがダメ押しの5点目をゲットし、これで完全に勝負は決まった。

大会日程に困惑する両指揮官

「もう少し余裕のある日程が組まれたら」と語る清水の大榎監督。すぐにJ1残留の戦いが始まる 【宇都宮徹壱】

「結果的に5失点してしまって、失点が最後まで響いてしまった感じですね。2失点してから2点追いついたところは、本当に選手が頑張ってくれたし、自分たちの狙い通りの形で2点は取れたと思います。ただし、自分たちのミスからの3失点があった。サッカーにはミスがつきものですが、やはりそのミスを減らさないとなかなか勝てないのかなと。G大阪はサッカーを分かっている選手が多いので、そういうスキを見せてしまうと失点につながるということは、あらためて感じました」

 清水の大榎克己監督の試合後の総括である。まったくもってその通りなのだが、選手個々の実力差に加えて、清水がJ1残留に「選択と集中」をした当然の帰結であったと見ることができる。それでも「試合を捨てた」と指弾するつもりはない。4年ぶりとなる天皇杯決勝進出よりも、J1残留を何よりも優先せざるを得ない状況だったのだ。もっとも、準決勝が例年通り師走の暮れに行われていたなら、もっと違った戦い方ができただろう。その点について質問すると、大榎監督は言葉を選びながらこう答えた。

「そうですね……。土曜日に試合がある中、水曜日に天皇杯が入るというのは、メンバー選考からどういう戦いをするのかという部分で迷いました。もう少し余裕のある日程が組まれたらいいな、というのが感想ですね」

 同じことは、勝ったG大阪の長谷川監督も感じていたようだ。高校時代からの盟友である大榎監督への同情をにじませつつ、自身も今回の日程には大いに悩んだことを吐露した。

「いつもの天皇杯であれば(リーグ戦が終わってから)仕切りなおしてフルのメンバーで戦うことができるけれど、今回は日程的に厳しかったのでどのチームもターンオーバーの戦いをして、J1の力のあるチームが早い段階で負けてしまったという部分はあったと思います。今日の清水も、残留が第一目標だったのでメンバーを変えざるをえなかった。もしフルメンバーで戦えていたら、もっと違った内容と結果のゲームになっていただろうし、今日の準決勝を楽しみにしていたサポーターにも、もっと良いゲームを見せることができたと思います。その意味ではちょっと残念でしたね」

 実のところ「決まったものは仕方ない。目の前の試合を勝ち抜くだけです」的な答えが返ってくるのかなと思っていたのだが、勝者も敗者もこの日程に戸惑いを隠せないことがよく理解できた。「アジアカップがあるから」という理由はもちろん分かるが、伝統あるカップ戦がそのあおりを受けてクオリティーと盛り上がりに欠けてしまうというのは、いささか考えものだと思う。ちなみにこの日の観客数は、味スタが6708人、長居が2221人、両方合わせても1万人に届かなかった。冒頭で述べた2つの違和感は、そのまま客足をも遠ざけることとなったのは間違いないだろう(もちろん天候もあっただろうが)。救いがあるとすれば、次回の天皇杯が、元のスケジュールに戻ることがすでに決まっていることである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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