競争の結果、ベテラン招集は自然な流れ 代表強化に必要なプロセスとは?

大島和人

11月の試合に向け、アギーレ監督は長谷部(左)や遠藤(右)らを招集した。彼らベテランの招集は是か非か 【写真は共同】

 11月に行われる二つの国際Aマッチ(14日vs.ホンジュラス、18日vs.オーストラリア)に向けてハビエル・アギーレ監督は日本代表に3人のベテラン選手を呼び戻した。34歳の遠藤保仁、31歳の今野泰幸、そして30歳の長谷部誠だ。この選考は、これまで若手に限らず実績のない選手を大量招集して起用してきただけに大きな驚きをもって迎えられた。

 週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』では、ここに来てのベテラン大量招集は是か非か。あらためて問い直してみたい。今回、博識の党首・大島和人が現状を冷静に解析する。

アジア杯をどう位置付けるのか

直近の4大会を3度も制しているアジアカップをどう位置付けるのか 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「23分の11」から「23分の12」に――。アギーレ・ジャパンにおける、ブラジルワールドカップ(W杯)メンバーの割合だ。9月や10月の代表戦に比べて微増はしたが、“比率”ならほとんど変わっていない。ただし、アギーレ監督は遠藤、今野、そして長谷部というベテランを代表に呼び戻した。勝つためにベテランを戻した印象は確かにある。

 アギーレ監督も「大会の最終メンバーリストを作るために重要な2試合になる」と、1月のアジアカップ(アジア杯)を意識したチーム作りを明言している。この大会はユーロ(欧州選手権)やコパ・アメリカに相当する4年に一度のビッグタイトルだし、優勝すればコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)への出場権が手に入るという“特典”もある。

 日本は直近の4大会を3度も制している。となれば勝たねばならない……、いや“勝って当然”というくらいの自負を当事者は持っているだろう。ただしW杯という唯一無二の大会がある以上、アジア杯がすべてを捨てて取りに行く大会だとは思わない。けが持ちの選手を無理に使うべきではないし、シーズン中の欧州組を招集するのも最低限でいい。

 今回のアジア杯は前回大会までと違い、3位以内に入っても次回大会へのシード権を得られない。となればなおさら、日本にとって満足のいく成績は“優勝のみ”ということになる。ただし成績と同じくらいに大切なのは、アジアのタフな戦いを成長の場にすること。過密スケジュールの中で、アジア杯はまとまった日程を確保し得る貴重な期間となる。選手がコミュニケーションと連携を深め、代表の土台を作る――。結果以外のミッションはそこになるだろう。

現実としてベテランのほうが上ならば

“現役世代”には十分な能力、キャリアがある。若手が簡単に乗り越えられる壁ではない 【写真は共同】

 アジア杯はアギーレ・ジャパンのゴールでなく、W杯ロシア大会に向けたスタートだ。軸になる選手は残しつつも、欧州組やベテランの招集はほどほどにして、2018年に向けた土台を作る。その上で17年のコンフェデ杯で世界の列強と戦う資格を得る。このように“育てつつ勝つ”という二律背反の実現が理想には違いない。

 個人的にはもっとブラジル大会に絡んでない新世代の選手を観たい。ニューヒーローが台頭し、チームが成長しながら勝つというのは、アジア大会のベストストーリーだろう。しかしそれは願望であって現実でない。

 アギーレ監督も若手を軽視しているわけではなさそうだ。武藤嘉紀は3回連続で合宿に招集されているし、塩谷司、昌子源、松原健、田口泰士、柴崎岳、小林悠といったフレッシュな顔ぶれもリストに残った。(編注:小林はけがのため離脱)もちろん個々の選考について突っ込みようはあるし、リオ世代(1993年以降生まれ)の台頭不足も気になる。ただアギーレ監督が若手を試して、一人一人引き上げるという作業を怠っているわけではない。新旧の比率を見れば、今回の構成はオーソドックスだろう。

 15年前、20年前なら声高に世代交代を叫べば良かった。アトランタ世代、シドニー世代が“ドーハ組”や“フランス組”を凌ぐ技術やタレント性を持っていたからだ。岡田武史監督はジョホールバルで20歳の中田英寿に助けられ、フィリップ・トルシエは平均25.3歳の若いチームでW杯16強入りを果たした。強引なくらいに若い人材を抜てきすることが、勝つための方法論でもあった。

 しかし今は“現役世代”に十分な能力、キャリアがある。若手が簡単に乗り越えられる壁ではない。必然的に世代交代のタイミングは遅くなっていく。香川真司でさえ、08年の南アフリカW杯最終予選ウズベキスタン戦ではさえないプレーをして代表の定着に失敗。21歳で迎えた10年の本大会は、メンバー入りできていないのだ。

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著者プロフィール

1976年生まれ。生まれが横浜で育ちは埼玉。現在は東京都(神奈川県に非ず)町田市に在住している。サッカーは親にやらされたが好きになれず、Jリーグ開幕後に観戦者として魅力へ目覚めた。学生時代は渋谷の某放送局で海外スポーツのリサーチを担当し、留年するほどのめり込む。卒業後は堅気転向を志して某外資系損保などに勤務するも足を洗いきれず、2010年より球技ライターとしてメジャー活動を開始。

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