偶然ではなく必然、勝敗分けた青木の一打 敗者ロイヤルズも“勝者”の希有なWS

杉浦大介

青木のバットが捉えた、こん身の一打

同点機だった青木の5回の打席。結果的に、このチャンスをものにできなかったロイヤルズは敗戦し、ジャイアンツがワールドチャンピオンに輝いた 【Getty Images】

 相手エース攻略の最大のチャンスは、マウンドに登場した直後に訪れた。

 現地10月29日(日本時間30日)、カンザスシティで行われた2014年ワールドシリーズ第7戦――。3‐2とリードしたジャイアンツは、第5戦で完封勝利を挙げたばかりのマディソン・バムガーナーを5回裏からマウンドに送り込んだ。
 絶好調の左腕もこのイニングはやや制球が乱れがちで、ロイヤルズは1死二塁のチャンスをつかむ。ここで、2番打者の青木宣親が打席に向かった。
 勝負は2ボール1ストライクからの4球目。87マイル(約140キロ)の外角スライダーを、青木のバットは奇麗に捉えたように見えたが……。

「狙ったボールだったし、ある程度イメージ通りだった。これもまあ野球ですから、仕方ないこと。悪い打席ではなかったです」

 試合後の青木がそう語った通り、こん身の一打もヒットにはならなかった。レフト線へのライナーは左翼手のフアン・ペレスに好捕され、同点機はついえる。この後、結局9回2死まで、バムガーナーは1人のランナーも許すことはなかった。

勝負どころで上回ったジャイアンツ

 青木の放った打球は二塁打になっていてもおかしくなく、捕球されてしまったことは不運だったのか? いや……守備の良いペレスをスタメン起用し、レフト線にシフトを敷いていたことは“運”ではあるまい。文字通り天下分け目の一戦の勝負どころで、ジャイアンツが上回ったということだ。

 緊張で身も凍るようなこの第7戦でも、この5年間で3度目の世界一を目指した王者ジャイアンツは持ち前のうまさを存分に発揮してみせた。
 2回表には2本の犠牲フライで渋く2点を先制。一度は追いつかれた後の4回表にも、ケルビン・ヘレラの99マイル(約159キロ)の豪速球を7番打者のマイク・モースが逆らわずにライト前にはじき返して勝ち越し。この虎の子の1点を、ジョー・パニック二塁手、パブロ・サンドバル三塁手らの堅い守備で守り続けた。

勝利の立役者となったヤングエース

2勝1セーブ、防御率0.43の快投でシリーズMVPに輝いたジャイアンツのエース・バムガーナー(トロフィールを掲げている選手) 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 依然として「プレーオフは運次第」などと言う人がいるが、ジャイアンツがこれだけの頻度で勝ち続けることは偶然ではあるまい。主力選手の的確な打撃も、ペレスの適切な守備位置も、生え抜きの好投手が次々と現れることも、恐らくはすべて必然。そして、今季最後の大一番では、プレーオフを通じて快刀乱麻を続けてきた1人のヤングエースが再び勝利の立役者となった。

 恐るべしは25歳の左腕バムガーナー。中2日のリリーフ登板でも、角度の効いた速球、制球良く決まるスライダー、大舞台に動じないマウンド度胸は変わらなかった。エースは涼しい顔でマウンドを守ると、5回からの5イニングを2安打、無四球、4三振で軽々と零封。3‐2で逃げ切り勝利を飾り、ジャイアンツを通算8度目の世界一に導くと、マウンド上でガッツポーズを見せた。

「良いピッチャーですね。(第5戦で)あれだけ投げた後、中2日であれだけのピッチングができるわけですから。身体がつらいのは間違いないはずだけど、それでもムチを打って投げているのが伝わってくる。向こうの方が少し上でした」

 バムガーナーとの対決で通算5打数無安打に終わった青木も、そう舌を巻いた。
 ワールドシリーズを通じて2勝1セーブ、防御率0.43(21イニングで自責点1)と完璧な数字を残した大型サウスポーは、文句なしでシリーズMVPに選出。チームが挙げた4勝のうちの3勝に絡んだパフォーマンスは、ほとんど常軌を逸していた。期せずして“バムガーナーのシリーズ”となった2014年の最終決戦は、MLBの歴史に永く刻まれていくはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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