偶然ではなく必然、勝敗分けた青木の一打 敗者ロイヤルズも“勝者”の希有なWS

杉浦大介

野球ファンを虜にしたロイヤルズのミラクルラン

試合後のクラブハウスで涙を流した青木らロイヤルズの選手たち。しかし、今秋のロイヤルズのミラクルランは“勝者”とも言える快進撃だったことは多くの野球ファンの心に残ったはずだ 【Getty Images】

 ただ、最後は経験豊富な相手の前にあと一歩及ばなかったとはいえ、ロイヤルズの選手たちもこの敗北を恥じる必要はない。

「すごくピリピリするような緊張感の中、これだけのファンの前でプレーできて、心躍るような気持ちになった。プレッシャーを感じながらも、純粋な野球をやっているような気持ちにさせられました」

 試合後の青木が残した“心躍る”という表現に、今ポストシーズンでのロイヤルズの快進撃を目撃したすべてのファンは同意するのではないか。

 無印のままワイルドカードから勝ち上がり、全米の関係者を驚かせた。多くの延長戦を含む接戦の連続も強力ブルペンとクラッチヒットで勝ち抜き、ベースボールファンを連夜のように寝不足にさせた。

 シャープな打撃でブレークしたエリク・ホズマー、驚異的な守備範囲でベテラン記者たちをも驚がくさせたロレンゾ・ケーン、童顔から100マイル(約160キロ)前後の真っすぐを投じたヨーダノ・ベンチュラ、豪球の連投で名だたるスラッガーたちを震撼させたケルビン・ヘレラ、ウェード・デービス、グレグ・ホランドのブルペン3本柱……etc。荒削りで爽やかなカンザスのタレント集団は、野球ファンにとっての10月を間違いなくより楽しいものにしてくれた。

 バムガーナーの前についに屈した第7戦でも、9回2死からアレックス・ゴードンが安打と相手エラーで三塁に達する粘りを見せてくれた。あの瞬間のスタジアムの盛り上がりのすごさは、その場にいた者にしか分からない。最後まで見せ場をプレゼントしてくれたことに、感謝したいくらいである。

「もう一歩だったですけどね。本当に手の届くところまで来ていましたけど。一歩及ばずというか、悔しいですね……」

 そう語った青木をはじめ、何人かのロイヤルズ選手たちは試合直後のクラブハウスで涙を流した。ただ、少し落ち着いてすべてを振り返ったとき、選手たちも、ファンも、チーム関係者も、取材した記者たちですらも、今秋のロイヤルズのミラクルランを温かい気持ちで思い出すのではないか。
 敗れたチームまでそう思えるのだとすれば、14年のワールドシリーズは素晴らしかった。優勝したのはジャイアンツでも、関わった多くの人間が“勝者”として記憶される希有なシリーズだったのである。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント