岩政大樹が感じたタイリーグの現状と収穫 凝り固まった価値観を揺さぶる1年

本多辰成

今シーズンからタイのテロ・サーサナへ移籍した岩政が感じたこととは何か 【本多辰成】

 今シーズン、多くの日本代表経験者らが移籍して注目を集めたタイリーグ。なかでも鹿島アントラーズを退団してタイを選択した岩政大樹(BECテロ・サーサナ)の移籍は、大きなインパクトがあった。

 昨年7位だった所属クラブは終盤まで優勝争いに絡む躍進を遂げ、個人としても月間MVPを受賞するなど期待通りの働きを見せたと言える岩政に、タイでの1年を振り返ってもらった。

描いていたものは、その通りにできた一年

――タイリーグ1年目のシーズンも終盤ですが、この1年は岩政選手にとってどんなものでしたか?

 思った以上に自分の成果はあげられたと思います。移籍する時、「中位くらいのクラブに行って上位に引き上げるというのが一番自分の価値を高められそうだ」、という思いがありました。それが予想以上にすんなりできて、試合にもずっと出続けることができたのは一番よかったところだと思います。1年でやれたことは多かったと思うし、思い描いていたものはその通りにできた1年だったかもしれないですね。

――今季は60名以上の日本人選手がプレーするなど脚光を浴びたタイリーグですが、1年を戦ってみて率直にどんな印象を持っていますか?

 いろいろなものが変わってきている時だというのは、肌で感じます。各クラブ、外国人選手のレベルも上がってきていると思いますし、(第17回仁川)アジア大会でもタイはベスト4に入った。ウチのチームもシーズン途中で新しい練習場を買ってそこにクラブハウスを作るという案が出てきたり、チェルシーで監督をしていたアブラム・グラントがテクニカル・ディレクターとして加わって練習を見ていたり。もちろん伝え聞くものも含めてですが、今年だけでも少しずつ変化しているのを感じます。日本は良くも悪くも安定していますから、そこはある意味で今のタイの面白いところかもしれませんね。

ブリーラムは今のタイでは特殊なチーム

――タイリーグのレベルについてはどのように感じていますか?

 レベル的に言ったら、そんなに高くないのはすぐに分かりました。ただ、僕はJ1でしかプレーしていませんので、たとえば、「J2くらい」とか「J3くらい」とか言うのはフェアじゃないですよね。鹿島との比較でしかしゃべれないので、それよりは低い、という言い方しかできません。

――昨年はブリーラム・ユナイテッドがACL(AFCチャンピオンズリーグ)でベスト8入りするなど、アジアでも結果を残しています。

 ブリーラムはやはり、普通のことを普通にできているチームという感じはします。普通のことを普通にやれるレベルまでちゃんと選手たちを管理している、今のタイの中では特殊なチームだと思います。かけているお金も違いますからね。現状、タイの場合は戦術で個々の差を埋めようとすることをあまりしないので、選手のレベルがそのまま出やすい。簡単に捉えると、お金をかければ成績が出てしまうという傾向はあると思いますね。

――たとえば、ブリーラムがJ1で1年戦ったらどういう結果になると思いますか?

 頑張れば残留はできるんじゃないでしょうか。でも、それは何とも言えませんね。

“タイのメッシ”もすぐにはJ1で通用しない

タイのレベルはそれほど高くない。技術、判断、戦術に大きな差がある 【本多辰成】

――戦術面は問題があるが選手個々の技術は低くない、という声がタイサッカーに対してよく聞かれます。

 単純にボールを1人でコントロールするということに関しては、そんなにへたではないと思います。ただ、そこからサッカーに落とし込んでいった時に、サッカーをするための技術、判断、戦術というところは大きな差がある段階ですね。1人でボールを蹴る技術も日本のトップに比べたらかなり低いですけれども、それ以上に差があるとすれば「サッカーをする」ということ、サッカーを知っているかというところですよね。

――チームメートには今季開幕前に清水エスパルスの練習にも参加した、“タイのメッシ”ことチャナティップ(・ソングラシン)選手がいます。彼はJ1で通用する可能性があるでしょうか?

 すぐには通用しないでしょうね。少なくともJ1とは全くサッカーの質が違うので、面食らって終わってしまうと思います。同じようなことを要求している中でそのレベルが上がっただけなら適応すればいいですけれども、彼が日本に行くということは今まで教えられていないことを新しく教えられるということですから、適応というレベルじゃない。2、3年は我慢することを覚悟して、日本のサッカーに慣れるという段階を踏めば、彼がJリーグで活躍する可能性はあると思います。

 本当に日本に追いつくぞということなら、すべてを投げ打ってでも俺が行ってやる、という“先駆者”が出てこないといけないですよね。日本でカズ(三浦知良)さんや中田ヒデ(英寿)さんがしたように。でも結局、すべては彼らが選ぶことですから。

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著者プロフィール

1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。

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