黒星もチェンが敵地で示した「らしさ」 “アジアのエース”に待たれる収穫の日

杉浦大介

好投報われずチームは3連敗

ア・リーグ優勝決定シリーズ第3戦に先発し、6回途中2失点で黒星を喫したチェン。これでチームは3連敗、後がなくなった 【写真:ロイター/アフロ】

 事前に語っていた通り、決意の感じられる投球ではあった。

「チームの粘りを見せてもらったので、自分も最後の最後までそういう投球内容を見せていきたいと思います」

 現地時間10月3日(日本時間4日、以下はすべて現地時間)のタイガースとのア・リーグ地区シリーズ第2戦で3回2/3で5失点と打ち込まれながら、味方の反撃で逆転勝利。その試合後、元中日、オリオールズのチェン・ウェインは次の登板に向けての意欲を語っていた。

 それから中10日を挟んで迎えた14日のリーグ優勝決定シリーズ第3戦は、チェンにとってのリベンジの舞台だったのである。

 破竹の勢いのロイヤルズに2連敗を喫して迎えたこの試合は、チェンのメジャーキャリアで紛れもなく最も重要な先発機会だったろう。負ければ王手をかけられてしまう瀬戸際のゲームで、台湾出身の左腕は立ち上がりから小気味よくストライクを投げ込んでいった。

 4回に2本のポテンヒットと四球で満塁のピンチを迎えたが、6番打者のアレックス・ゴードンをセカンドゴロ、サルバドール・ペレスもセカンドフライに斬って取り、失点を最小限にとどめた。続く6回に青木宣親、エリク・ホズマーに2本のヒットを打たれたところで交代し、リリーフが犠飛を許したために自責点は2。それでも5回1/3で7安打1四球4三振という投球は、敵地という舞台の厳しさを考えれば堂々たるものだったと言ってよい。

 ただ……それでも勝てなかった。チェンは試合を作ったにも関わらず、オリオールズ打線はきれいに沈黙。4回以降は1本の安打すら出ず、1−2で敗れてまさかのシリーズ3連敗となった。

 結果的に、好投が報われなかったチェンが敗戦投手。6回まではまともに捉えられた打球はほとんどなかっただけに、不運な印象も残る登板になってしまった。

日本育ちの投手の中で一線を画す存在に

 ここに至るまで、台湾生まれ、プロ投手としては日本育ちの異色のサウスポーは、米国でもまずは順調に階段を上ってきたと言ってよい。

 中日に8年在籍した後にメジャー移籍し、渡米3年目となった今季に16勝(6敗)、防御率も初の3点台と自己最高の数字をマーク。185回2/3を投げて35四球と制球が向上したことが主な要因となり、オリオールズの主戦格として完全に確立した。大半の日本人投手は徐々に成績が下がる傾向にある中で、チェンの軌跡は他の日本出身投手たちと一線を画している感がある。

「ちょっと三振が多過ぎた。三振をとるとどうしても球数が多くなるので、もっと打たせて長いイニングを投げたかったんですけど」
 
「日本なら真っすぐで絶対に抑える自信がありますが、こっちには自分よりも(球速の)速い投手がいる。低めに集めることを意識しています」

 これらのコメントに代表されるように、チェンは渡米直後からメジャーの先発投手に求められるものをしっかりと理解した発言が多かった。

 依然として流ちょうな日本語を喋り、試合後には米国、台湾、日本メディアの取材(英語は通訳付き)に順番に答えていく。新たな環境に対する戸惑いは感じさせない。若いうちからベースボール以外でもさまざまな人生経験を経てきたに違いない29歳は、新天地のカルチャーに適応するすべに長けているのだろう。

 そのアジャストメント能力が、米国での成功につながっていることは想像に難くない。3日のタイガース戦で打ち込まれた直後にも、「気持ちの切り替えがうまくできなかった」と自身に足りなかったものを冷静に分析していた。その後に立て直し、今回のロイヤルズ戦での堅実な好投につなげてみせたのは実にこの投手らしかったと言える。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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