黒星もチェンが敵地で示した「らしさ」 “アジアのエース”に待たれる収穫の日

杉浦大介

意外に高まっていない台湾での人気と評価

かつてヤンキースのエースとして、2年連続19勝をマークした王建民。台湾では彼の人気がいまだに高い 【写真:ロイター/アフロ】

 気取りがない人柄でメディアからも愛されているチェンだが、少々意外なことに、母国・台湾での人気、評価はそれほど高まっていないという。

「王建民が台湾史上最高に人気のある野球選手で、チェンはそのレベルに達していない。オリオールズという小規模チームでプレーしているのが大きいのだろう。加えて台湾のベースボールファンは本当に王を熱狂的に支持したから、“チェンの実績はまだ十分じゃない”なんて言いたがる。王があまりにも輝いたから、チェンはその影に入ってしまっているんだ」

 ある台湾人記者が比較材料として挙げてくれた王とは、2006、07年にヤンキースのエースとして2年連続19勝を挙げた本格派右腕。“ボウリングの球のように球質が重い”と形容されたパワーシンカーを武器に、好調時には手のつけられない完璧な投球をする投手だった。

 全米屈指の人気球団・ヤンキースに君臨した先輩と比べると、チェンは確かに知名度で見劣りする。コンスタントに試合を作って先発投手の役割は果たすが、今季も7イニング以上を投げたのは31度の先発のうち8戦のみと支配的な投球は少ない。そのようにややインパクトに欠けるチェンにとって、今年のポストシーズンは評価を高める絶好の機会のはずだった。

プレーオフの活躍が台湾、日本からの注目度を高める

 オリオールズをワールドシリーズに導けば、あらためて全米のお茶の間から脚光が当たる。通算1勝3敗、防御率7.58とプレーオフは苦手だった王をしのぐ勲章を手にできる。そして、日本人投手の所属するチームはすべて敗退した現状で、その活躍は日本球界からも少なからず注目されていただろう。しかし……。

 現在のロイヤルズの勢いを考えれば、3連敗を喫したオリオールズの巻き返しは少々考え難いのが現実。結果として、14日の試合がチェンにとって2014年最後のマウンドになってしまう可能性は高い。これまで過小評価してきた母国のファンをも感嘆させるプレーオフの快進撃は、また1年後まで待たなければならないかもしれない。

 ただ、適応能力に優れたチェンなら、ア・リーグ優勝決定シリーズの先発という新たな経験からまた何かをつかむに違いない。今季中に再びの登板が奇跡的に実現するか、あるいは来年になるか。答えは分からないが、“アジアのエース”にいつか訪れるであろう収穫の日を今から楽しみに待ちたいところである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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