フランクフルトで輝きを取り戻した乾 要因は新監督の配置転換と長谷部の支え

半年前と状況が一変

昨シーズン出番を失っていた乾(左)。今季は再び出場機会を増やしている要因とは 【Bongarts/Getty Images】

 飛び跳ね、笑い、また跳ねる。ハンブルクのスタジアムへ遠征してきたファンの前で、アイントラハト・フランクフルトの選手たちは数分間にわたり肩を組み、腕を取り合い喜び合っていた。9月28日に行われたブンデスリーガ第6節ハンブルガーSV相手の劇的な2−1での勝利は、いまいちな今季のスタートに光をもたらすものだった。

 お祭り騒ぎの中心に、2人の選手がいた。乾貴士と長谷部誠である。アイントラハト(ドイツ語で「協調、団結」の意)の一員だという気持ちが高まったことだろう。2人は「ニッポン・コネクション」の列にも加わったのだ。この10年で、ここマイン川のほとりでは稲本潤一、高原直泰という日本人選手がプレーしてきた。

 長谷部が実際にクラブにやって来たのは、2部に降格したニュルンベルクを後にしたこの夏のことだった。新監督のトマス・シャーフは、乾の成長を喜んでいる。「彼は自分に苦行を強いることがない。ピッチ上でも、フィールド外でもね」。地元の記者たちは今年4月、そんな意見を乾に対して持っていた。乾は野心に欠けるように見え、うまく溶けこんでおらず、ブンデスリーガを去るのも時間の問題かと思われた。実際、ファンはブンデスリーガに別れを告げる彼を想像できていた。

 だが、状況は変わった。地元紙『フランクフルター・ルントシャウ』のインゴ・ドゥルステヴィツ記者は、開幕前からそれに気づいていた。プレシーズンの段階で、こう記していたのだ。

「この26歳はプレーする喜びを爆発させている。能動的で懸命に働き、真面目で、狂ったように走る。うまくいかないことがあったとしても、たくさんトライする。前へと進み続け、顔を下げることはない。乾はアイントラハトのプレーを司る、創造性あふれるコントロールステーションだ。頭にはアイデアと解決策がつまっており、常に良い意味で驚かせてくれる」

ピッチで躍動、ドイツ語も学ぶ

乾の復活にはシャーフ監督(右)の配置転換と長谷部(中央)のサポートによる影響が大きい 【Bongarts/Getty Images】

 その変化は、変身とさえ言えるものだった。クラブの財政面を取り仕切るアクセル・ヘルマンはこんな疑問を口にした。「あの背番号8をつけた新しい選手は誰だい?」

 昨季のひどいパフォーマンスのために、乾はブラジルワールドカップ(W杯)に挑む日本代表で居場所を見いだせなかった。小柄なドリブラーには、きつい仕打ちだった。すでに休暇のうちから、乾はクラブでの新たなスタートに向けて準備をしていた。リセットだったと言っていい。そんな乾に、新監督はチャンスを与えた。

「アイントラハトにやって来た時、どこでもプレーが可能だと思っていました」。開幕前、地元の大手紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』のインタビューで、乾はそう語っている。「でも今では、僕の最高のパフォーマンスを見せられるのは中央のポジションだと認識するようになりました。だから試合に出たいなら、このポジションになるんです」

 アイントラハトの新指揮官は、高い技術を備えたMFを昨シーズンの左サイドから攻撃の中心へと移した。賢い配置転換だった。動けてサプライズを創出するMFが、監督の好みだ。だから、ファンのお気に入りのアレックス・マイアーでさえも、先発から外されることになった。

 小柄な日本人は笑みを浮かべ、練習し、そして好パフォーマンスを披露する。それにドイツ語も学んでいる。「これは重要な点だ」と指摘するのは、かつてボーフムでスポーツディレクターとして乾を見ていたイェンス・トッドだ。乾をドイツへ連れてきたのが彼だった。

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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