松本の強さの秘訣は「個人能力」だった!? 番記者が唱える、あえての逆説

多岐太宿

34節までを終えて2位につける松本山雅。番記者の考える強さの秘訣とはなにか 【Getty Images】

 2014年のJ2リーグは全体の4分の3余りを消化。いよいよラストスパートが問われる季節になってきた。「最初からスパート」状態だった湘南ベルマーレが早くも昇格を決める一方で、2位以下は予断を許さない状況が続いており、下位の攻防も熾烈だ。

 そこで週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』では、J2の幾つかのクラブにフォーカス。そのラストスパートに注目する。今回は2位を走る松本山雅FCの番記者・多岐太宿氏が自身のチームの強さを再解剖。「個人能力で劣る松本が……」という巷間流布する通説に「異」を唱える。

強さの秘密はチーム力?

『J論』からの依頼メールが届いたのは9月28日だった。J2終盤戦を迎え、テーマは当然「松本山雅について」だ。大恩ある『J論』川端(暁彦)編集長からの直々のご依頼にすぐに了解したのだが、当日はJ2第34節コンサドーレ札幌戦の開催日。敗戦(1−2)を受けて、思わず「すみません、やっぱりナシで」と言いたくなった。

 松本山雅、9月の戦績は2敗3分け。5戦勝ちなし、である。

 さて現在こそ壁に直面しているとはいえ、J2でも中位に位置するクラブ体力(予算、環境など)の松本が現在堂々のJ2で2位なのだから、その「費用対効果」には驚くほかない。この位置につける要因を幾つか挙げるならば、「豊富な運動量で相手を凌駕(りょうが)するスタイルがJ2にマッチ」「知将として知られる反町康治監督の指導と分析のたまもの」「熱いサポーターが声援でチームを鼓舞している」などになるだろうか。もちろんそれら一つ一つは真実なのだが、筆者はここで新説(というのは大げさだが)を打ち出したい。

 それは「松本の選手たちの個人能力の高さ」だ。個の能力ではなくチーム力で他と伍してきたとされる松本において、あえて唱える逆説だ。

際立ったのは、個々の長所

個々の選手の良さを反町監督がチームに落とし込んでいる 【Getty Images】

 少し前、某サッカー専門誌で『選手が選んだ部門別ベストプレーヤー』という企画があった。反町監督はその内容を移動中に興味深く読み込んだという。その企画ではヘディング部門にDF飯田真輝、スタミナ部門にDF田中隼磨、キック精度部門にMF岩上祐三、一瞬の速さ部門にFW船山貴之がそれぞれ上位に選出されている。他チームのライバル選手たちは松本の選手たちをそのような視点で見ているという事実が、指揮官にとっては新鮮だったようだ。そして、「個々の選手の良さを、チームに落とし込んでいるからな」とつぶやいた。自身のチーム作りが間違っていなかったことをあらためて感じ取ったという口ぶりで。

 止める、蹴る、走る、決める――。サッカーには多くの要素が必要となる。それらすべてを高いレベルで兼ね備えているハイスペックな選手は、当然ながらほとんどJ1でプレーしている。もしJ2にいたとしても、例えば今季のジュビロ磐田のようなクラブ力の高い場所にいるのが常だ。岩上は「開幕前は『磐田が断トツかな?』と思っていた」と語っており、それが第三者の見方というものだろう。

 しかし、松本には先述のとおり「一芸」に長けた選手が多く存在した。総合力では目をつぶらないといけない部分があるにしても、短所に頭を抱えるのではなく、あくまでも長所にスポットを当ててきたのだ。形が不ぞろいのジグソーパズルのピースをうまくはめこみながら一つの作品へと昇華させることは、決して容易な作業ではない。そのピースとピースをつなげる接着剤足りえたものこそが、冒頭に述べた運動量であり、反町監督の分析であり、そしてサポーターの存在ではなかっただろうか。

 もちろん最初から最後までうまくいくほどサッカーは簡単ではない。開幕から8月までの快進撃を経て、他チームの対策が進んだ今、松本は正念場にいる。チームは生き物である以上、好不調の波は必ずあるもの。ここでいかにして平常心を保てるかが重要なのだが、加熱する周囲の期待は、心配が高じて時として熱暴走を起こすものでもある。

 ただ、個々の長所を押し出して戦ってきたチームのベクトルに誤りはない。そう断じておきたい(もちろん課題をあぶり出し、修正していく作業は必要だが)。疑心暗鬼を生じることなく、残り試合へと向かうべきだろう。

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著者プロフィール

1976年生まれ、信州産。物書きを志し、地域リーグで戦っていた松本山雅FCのウォッチを開始。長い雌伏(兼業ライター活動)を経て、2012年3月より筆一本の生活に。サッカー以外の原稿も断ることなく、紙、雑誌、ウェブサイト問わず寄稿する雑食性ライター。信州に根を張って活動中!

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