八重樫がリングで感じたロマゴンの“風”=ぎりぎりの緊張感も「面白かった」
リスク覚悟の打ち合いで着実に削られた体力
死闘を演じた八重樫とロマゴン。試合後は勝者にも敗者にも惜しみない拍手が送られた 【中原義史】
3ラウンド途中、回転の速い連打とステップワークで八重樫がリズムに乗りかけた。だが、八重樫がワンツーから左フックを返そうとしたところに、ゴンサレスのコンパクトな左フックが一瞬早くヒット。八重樫がキャンバスに尻餅をつく。そのダウンを境に流れは一気に打ち合いへとなだれ込んだ。八重樫は試合後「打たれたら打ち返すという、根本的な部分でしか勝負できなかった」と振り返っていたが、リスク覚悟で挑んだ打ち合いは、結果として終始、ゴンサレスに分があった。八重樫が何度も打ち返しても、それ以上のゴンサレスの一発一発、芯を打ち抜くようなコンビネーションブローの波が返ってくる。
ゴンサレスもボディを含め、「効いたパンチはたくさんあった」と率直に明かしたが、松本好二トレーナーが「こちらのほうが、だんだん電池がすり減ってきているのがわかった」と言うように、それと引き換えに八重樫は着実に消耗していった。迎えた9ラウンド、八重樫は何度も追い込まれながら、そのたびに踏ん張って食い下がったが、ゴンサレスの連打に煽られて体を泳がせると、最後の左フックで力なくコーナーに沈んだ。八重樫は試合続行を希望したが、カナダのマイケル・グリフィン主審が許さなかった。
1R終了時点で「足は使い切れない」
八重樫は1回、ゴンサレスの圧力と3分間向き合った皮膚感覚から打ち合いを選択した 【中原義史】
「リングに立って、向かい合って。そのときの風を感じて決めようと思う」
それが、公開練習時の八重樫の言葉だった。リングサイドで試合を見届けた大学の先輩でもあるWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志(ワタナベ)は試合後「1ラウンドはうまく足を使えていた。あれで中盤まで行って、イライラさせれば良かったのではないか」と振り返った。
では八重樫はどんな“風”を感じたのか。松本トレーナーによると1ラウンドを終え、コーナーに戻った八重樫は「足は使い切れない」と漏らしたという。八重樫の直感を信じようと考えていた松本トレーナーも内山と同じように、このままスピードを生かせばと感じたというが、ゴンサレスの圧力と3分間、向き合った八重樫の皮膚感覚は「この展開は絶対に続けられない」だった。その時点で八重樫の心はすでに打ち合いに傾いていたのだ。
野性味というより質の高い超一流の技術
「確かにハードパンチャーではあるけど、ボクシングのひとつひとつが繊細で、技術が超一流と感じた」とゴンサレスの強さを振り返った八重樫 【中原義史】
距離の長いパンチで体をストップされ、そこにまた細かい連打が飛んでくる。理詰めの攻めをより機能させるのがパンチ力であることは間違いないが、それ以上に「確かにハードパンチャーではあるけど、ボクシングのひとつひとつが繊細で、技術が超一流と感じた」と八重樫は振り返る。足を使って距離を取れば、逆にその間合いを利用されて、圧力が増す。距離をつぶすしかないと判断したのはそのためだった。
八重樫とロマゴンではフィジカルの差はあったが…
フィジカルトレーニングで計画的にフライ級の体をつくり上げた八重樫とナチュラルに体重を上げてきたゴンサレス。フィジカルでは八重樫が上回っていたが… 【スポーツナビ】
とはいえ、そのパワーを最大限想定し、圧力に押し負けないように特に体の後ろ側の筋肉を鍛え、また、パンチに耐えられるように首回りの僧帽筋を徹底的に鍛えた。土居トレーナーの狙いは「ある程度の被弾に耐えることで焦りを誘い、パンチを強く振らせるなどしてスタミナをロスさせること」だった。打ち合いに耐えられたのは、ひとつにはこの成果があったかもしれないが、ペースをかき乱すまでには至らなかった。