スペイン化が進むペップ・バイエルン クロース放出とX・アロンソ獲得の意味
かつてのバルセロナと同じ道を歩む?
シャビ・アロンソを獲得するなどスペイン人が増えたバイエルン・ミュンヘン。グアルディオラ監督によるスペイン化が話題を集めている 【写真:ロイター/アフロ】
ルイ・ファン・ハールの名が、バイエルンの練習場のあるゼベナー・シュトラーシェ周辺で何度となく聞かれるようになった。マンチェスター・ユナイテッドのドラマチックなプレミアリーグの新シーズンスタートのためでも、かつての愛弟子ホルガー・バドシュトゥバーがファーストチームに入ったからでもない。バイエルンを取り巻く、あるつながりが指摘されてのことだった。その記憶の糸は、かつてのバルセロナへとつながっていく。
ファン・ハールは1990年代終盤、バルセロナをオランダ人であふれかえらせた監督として新聞の見出しを飾った。99年のファン・ハールは8人のオランダ人に加え、アヤックスでプレーメーカーを任せていたヤリ・リトマネンもカタルーニャの名門に迎えた。この動きは大きなあざけりの対象となり、ファン・ハールの解任へとつながっていった。
ファン・ハールのスペイン初年度、キャプテンを任せられたのはペップ(グアルディオラの愛称)だった。現在43歳になったバイエルンの指揮官は、かつてのボスが犯した間違いから学ばなかったようだ。ファン・ハールの下でオランダ化したバルサのように、グアルディオラ率いるバイエルンはスペイン化しつつある。
生え抜きの放出に疑問の声が挙がる
青と赤のストライプで彩られた今季の新ユニホーム。ファンの間には激しい抵抗感が広がっていた 【写真:ロイター/アフロ】
青と赤のストライプで彩られたバイエルンの新ユニホームがSNS上で発表された時には、笑いが起こったものだ。だがボルフスブルクとのブンデスリーガ開幕戦の前には、ファンの間に新たなアディダス製のユニホームに対する激しい抵抗感が広がっていた。グアルディオラの古巣であり、この数年間スタイルをまねしようとしていたクラブのそれに、あまりに似すぎていたからだ。ファンはバイエルン独自のアイデンティティーを、ユニホームにもメンバーにも求めていた。「どうして最盛期に入りつつある地元育ちの生え抜きを放出し、その後釜に年老いたスペイン人を据えるのか」と、疑問の声を挙げたのである。
驚くことにゴールデンボール賞はリオネル・メッシにさらわれたが、素晴らしいパスと現代のMFというものの解釈を披露したクロースこそが、今夏のブラジルで大きな存在感を残した選手だった。W杯での好調ぶりをアルゼンチンとの決勝に持ち込むことはできなかったが、ドイツの4度目のW杯制覇におけるキープレーヤーはクロースだった。母国では時に淡白なパフォーマンスをするとして批判されることもあったが、7−1と歴史的な勝利を収めたブラジル戦のみならず、魔法のような瞬間を提供することで、ヨアヒム・レーブの信頼に応えてきた。
この24歳を獲得しようと、マンチェスター・ユナイテッドは多大な努力を払ってきた。前監督のデイビッド・モイーズは、クロースを視察するため何度もブンデスリーガのスタジアムに足を運んでいた。だが赤い悪魔は95年以来となるCL出場権を逃す事態に陥り、レアル・マドリーに獲得レースで追い越される様を見せつけられることになった。
クラブからの信頼を求めたクロース
クラブからの信頼を求めたクロース。すでにスペインのメディアは新たな主役として称えている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
例えば、フィリップ・ラームやトーマス・ミュラー、バスティアン・シュバインシュタイガーらに対するような、バイエルンのユースから育った他のドイツ人スター選手に向けるものと同じような信頼を、クロースは求めた。その願いは、年俸に関しても同等のものがあった。バイエルンの幹部らは、クロースを先達と同等の、またはそれ以上のステージに上げることを望まなかった。そうであれば、契約期間が残り1年となった時点で、ミュンヘンのビッグクラブにはクロース売却以外の道はなかったのだ。来夏にフリーで彼を手放すことは、バイエルンにはあまりに大きなロスを意味した。
ミュンヘンでは他人の影の中で感じられなかった称賛を、クロースはついにレアル・マドリーで見いだした。銀河系軍団の初陣後、スペインのメディアは新たな主役としてクロースを称えた。すでに新たなベルント・シュスターと称する声さえあった。
クロースの加入によりサンティアゴ・ベルナベウでは、サミ・ケディラかシャビ・アロンソの少なくともどちらか1人が先発メンバーから外れることははっきりしていた。だが、彼らの未来がレアル・マドリーのベンチではなくミュンヘンにあるとは、数週間前には誰も思いもしなかった。
ハビ・マルティネスが十字靭帯(じんたい)断裂の重傷を負い、チアゴとシュバインシュタイガーも膝に問題を抱えている中、バイエルンは移籍の締め切りまでに迅速に対応することを求められた。多くの人が望んだのはサミ・ケディラの獲得だったが、グアルディオラが決断したのは、新聞の報道を信じるならば、1年前にも興味を示していた補強の実現だった。クラブのボスであるウリ・ヘーネスとカール=ハインツ・ルンメニゲも、リバプールの元スターとのサインにゴーサインを出したのだ。
ヘーネスが収監されて以降(14年3月)、バイエルンの移籍ポリシーにおけるグアルディオラの発言権はどんどん巨大になっている。何年間もこの南ドイツの名門は国境をまたぐクレイジーな夏の移籍市場と無縁でいたが、今やローマからメフメディ・ベナティアのような無名選手の獲得などに2600万ユーロ(約36億円)も費やすようになった。