スペイン化が進むペップ・バイエルン クロース放出とX・アロンソ獲得の意味
すでに存在感を放つアロンソ
シャビ・アロンソ(右)はすでにシャルケ戦でデビュー。ピッチ上で存在感を放った 【写真:ロイター/アフロ】
グアルディオラが探していたのは、トニ・クロースの「後釜」ではなかった。昨季CL準決勝でレアル・マドリーに手ひどくたたきのめされた後、少なくともドルトムントとのDFBポカール決勝以降は、カタルーニャ生まれの指揮官がさらにドラスティックに自身の戦術ビジョンを実現したがっていることがはっきりとしてきた。現在彼が行っている戦術的変更に比べれば、ラームの中盤への配置などほんの小さなステップに過ぎない。
グアルディオラは試合中にも、戦術をどんどん変えていく。バイエルンの新たな基盤は3人でつくる最終ラインとなっている。3バックの中心が古風なリベロのように振る舞って、多くのパスをさばいていく。グアルディオラの目には、アロンソはこの役割を担うのにぴったりで、負傷したスター選手たちの代役という以上の存在となっている。
バイエルンとともに歩み始めた直後から、アロンソがその経験を生かしてチームに貢献できることは、すでに先週(8月30日)のシャルケ戦でも示された。5部リーグを戦うクラブのグラウンドで、ウォーミングアップ程度に過ぎない練習しかしていないにもかかわらず、サインを交わした翌日にはポジション確保のポールポジションにいた。先発メンバーとしてピッチに立ち、偉大なマエストロのように新たなチームメイトを指揮したのだ。
アロンソのデビューとピッチ上での存在感は、強い印象を残すものだった。約70分の出場時間の間、成功率90%という安全かつ賢いパスとリーダーシップで、輝きを放ち続けていた。アロンソより多くボールに触ったのはバドシュトゥバーだけだったが、それも90分間をフルに戦ってのことだった。
バイエルンを待つ険しく長い道のり
バイエルンはほとんどの選手をW杯に送り出し、さらには米国へのプロモーションツアーなどイベント満載で、シーズン前の準備時間がブンデスリーガで最も短いクラブとなった。しかも多くの新戦力と抜本的に変えた戦術を融合させるため、新たなオートマティズムが機能し始めるまで開幕から数週間はかかる。だから選手たちはこの期間を、あまり厄介事を抱えることなく、とにかく「生き抜きたいんだ」と話していた。
シャルケ戦の最初の25分間は、自身がミュンヘンに来てから最高のものだったとグアルディオラは語った。マヌエル・ノイアーは1−1に終わった古巣との対戦を違ったとらえ方をしており、30分だけ最高のプレーをするだけではブンデスリーガでは不十分だと評した。シャルケはファイティングスピリットで勝ち点1を引き寄せ、バイエルンを倒すまであと一歩に迫っていた。
シャルケとのドローで、今後数週間がグアルディオラにとって難しいものになることがはっきりした。彼の言語を理解し、彼の哲学になじみやすい選手たちを獲得したが、温めているプランが瓦解したならば、ミュンヘンでのスペイン風の拡大は批判を浴びることになる。ドイツの「スペイン風に聞こえるな」という慣用句は、「何だか怪しいな」という意味を持つ。グアルディオラの計画は今のところ、多くの人にはスペイン語のように響いている。
このポーカーがどう動いているか見守ってきた人間には、クロースの移籍は驚きではなかった。同時に、グアルディオラがこれ以上妥協することなく、現在のバイエルンという建造物を壊し、広げていく努力をしていることが確認できた。ここまでのような成功譚(たん)が続くのならいい。だが、彼のビジョンの輪郭が歪み始めた際には、シャビ・アロンソ獲得はすぐさまブーメランとなって自らに襲いかかってくるだろう。
(翻訳:杉山孝)