世界ジュニアに見た陸上界の成果と課題 東京五輪世代の活躍を未来につなぐために

折山淑美

シニアでも活躍するために必要なこと

2つのメダルを獲得した桐生だが、本人は冷静に未来を見据えている 【写真は共同】

 だが、桐生が「米国などの選手はここからの伸びが違う。それに遅れないようについていかなければ、これから勝負ができなくなる」と言うように、ジュニアを卒業してからが日本の大きな課題でもある。海外のトップ選手のほとんどが、プロフェッショナルコーチの下で指導を受けて力を伸ばしていくのに比べ、日本の場合はプロフェッショナルコーチがいない。結局は自分で考えて練習をしている選手も多い。その差がその後の結果を大きく左右するのは間違いない。

「U−23の大学生がそこで停滞してしまい、もうひと息、突き抜けられないのが、日本陸上界の一番の欠点だと思います。その大きな原因は指導者の不足や、選手やコーチが国内指向になったりすること。私たちが世界で戦うための指導ができるようにしなければいけないし、そういう環境を整備しなければいけないですね。ただ、少し前から実験的に走り高跳びの戸邉直人(千葉陸協)や棒高跳びの山本聖途(トヨタ自動車)、短距離の飯塚翔太(ミズノ)、やり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)の海外遠征の支援をしていて、徐々に結果を出している。そういう海外指向を持つ選手をドンドン出していくことも日本陸連の役割だと思います」

 山崎監督によれば、中国の場合は英才教育を継続しながら、今では外国人コーチと契約しており、シニアとジュニアを含めた20数人の選手が、シーズン中はヨーロッパを拠点に活動しているという。その成果のひとつが、今大会の男子走り幅跳びの金・銀独占という結果だ。
 また競歩でも、以前から日本選手が合宿で訪れていたイタリア人コーチと契約し、フォームの矯正や強化に取り組んで安定した成績を出すようになっている。山崎監督はそんな中国の姿を「元々自分たちがやりたかったことだが、日本が動き出さないうちに中国に先を越されてしまった」と苦笑する。

「これからは選手が外国人コーチに指導を依頼したり、他競技のようにコーチを日本に招へいするという方法もあると思います。ただ、それとともに必要なのは、日本人コーチの育成ですね。選手強化といっても、それはコーチがいてこそできるもの。選手強化に関しては、日本も外国と比べてお金を使っているが、指導者の育成はまだ手つかずという状態です」

日本陸連に求められる“環境づくり”

 国内に限って考えても、シニアの指導者がジュニアの現場を見たり、ジュニアの指導者がシニアの現場を見ることだけで、指導者の視野を広げることにつながるだろうと、山崎監督はいう。それと同じように、大学の垣根を超えて選手が気軽にアドバイスを受けられる状態になれば、選手自身の選択肢も広がるし、指導者自身の経験の蓄積にも役立つはず。そうやって指導者自身も選手とともに視野を広げながら成長していくことこそが、日本陸上界全体のレベルアップにもつながるのではないか。

 選手強化と指導者の育成。その両輪を活発化させられるような環境をつくることこそが、この世界ジュニアで挙げた成果を、次に確実につなげられる最善の方法でもあるだろう。その環境づくりこそ、日本陸連の重要な役割である。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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