唯一無二の存在へ――女王RENAの決意=Girl S−cup直前インタビュー

中村拓己

8月2日に行われる『Girls S−cup世界トーナメント』に出場するRENAが3度目の頂点へ強い決意を語ってくれた 【スポーツナビ】

 女子格闘技真夏の祭典シュートボクシング『Girls S−cup』が8月2日、東京・代々木YAMANO HALLで行われる。

 2009年の第1回大会で日本トーナメントを制し、翌10年、12年の世界トーナメントを連覇した“世界女王”RENA。今年も世界各国から強豪選手たちが集まり、RENAは3連覇をかけてトーナメントに臨むことになる。

 しかしこの大一番を控えるRENAは「燃え上るものがなくなりつつあった」という。頂点に立つ者ゆえの苦悩の日々を経て、RENAが見出した新たなモチベーションとは何か。RENAが「Girls S−cup世界トーナメント」3連覇の先に見据えるものを語った。

燃える相手がいない…無敗ゆえの苦悩

約2年8カ月無敗街道を走っていたがゆえに、戦うモチベーションを見出しづらかったと語る 【t.SAKUMA】

「優勝するのは当たり前というか…優勝します!じゃ面白くないし、私自身、メラメラと燃え上がって来るものがなくなりつつあったんですよね」

 3連覇がかかった「Girls S−cup世界トーナメント」を目前に控えたRENAの口から意外な言葉が飛び出した。今、RENAはファイターとして絶頂期を迎えている。

 2011年11月、神村エリカとの“立ち技女子格闘技頂上決戦”に勝利して、初代RISE QUEENの座に就くと、翌年の「Girls S−cup世界トーナメント2012」では右足にボルトが入ったまま「それ以外にもケガがありすぎてどういう状況だったか分からない」という満身創痍の身体で連覇を達成した。

 その後もRENAは海外の刺客から勝ち星を積み重ね、約2年8カ月もの間、無敗街道を突き進んでいる。SBだけでなく、女子格闘技の象徴、そして女子格闘技をけん引する存在となったRENAだが、そんな周囲の評価や期待とは裏腹に自分を駆り立てる材料を失いつつあった。

 RENAはゆっくりとした口調で、そして遠くを見つめるように話した。
「今はライバルと言われる選手もいないですし、海外を含めても燃える相手もいない。最近はモチベーションをどこに持っていけばいいのかなと思っていました。だからライバルがいるのはいいことなんだなって思います。昔はほかの選手からああだこうだ言われて感情的になることもありましたけど、それはそれで幸せなんですよ。言われたら言われたでイラッとして『見とけよ!』と思いますけど、絶対に追う立場の方が楽ですから。正直、悩む時期が続きましたね」

新たなモチベーションは「未来の選手に勝つ」

試合での鬼気迫る表情とは別にチャーミングな笑顔も魅力 【スポーツナビ】

 自分を燃やすものがない。しかし立ち止まることは許されない。頂点に立つ者ゆえの苦悩の日々を過ごしながらも、3度目の真夏の祭典「Girls S−cup」は確実にやってくる。そんなRENAを同じ日に「Girls S−cup 48kg日本トーナメント2014」に挑む同門の妹分MIOが奮い立たせてくれた。
「MIOには、まだ上に選手がたくさんいて、MIOは上の選手たちと勝負しなきゃいけない。その中で頑張っているMIOの姿を見ていると『私は追われる立場だけど、追う立場の選手たちがいるんだな』と思います。やっぱり私も負けず嫌いだから、追う選手たちには負けたくない。MIOに対しては先輩の意地もあるし(後輩に)負けたくない気持ちがあります。モチベーションが上がらなくても、そういう気持ちで頑張って来れました」
 そして今、RENAには新たなモチベーションが生まれている。それは誰も成し遂げなかった実績を残して唯一無二の存在=レジェンドになることだ。
「現役のファイターに対してモチベーションが沸かない。じゃあそこでどうすればいいかを考えた時、私はアンディ・サワー選手のように実績やタイトル的に今の現役選手が越えられないところまで来つつあると思うんです。だからこれから先、私の実績を超える選手が出てくるのか、それとも出てこないのか。私が勝負するのはそこで、未来の選手と勝負して勝ってやろう、と。これから先も私の実績を超える選手が出てこなければ、私はレジェンドになれるじゃないですか? そうやって私自身どこまで行けるのかをモチベーションにしています」

 ではRENAが考えるレジェンドとはどんなファイターなのか? RENAは日本の女子総合格闘技のパイオニアであり、海外メディアからも“世界最強”と称された藤井恵の名前を挙げ、理想のレジェンド像を語った。「フジメグさんのような存在でありながら、フジメグさんとは全く違う選手ですかね。フジメグさんとはよくお話させていただくのですが『ああ…それ分かる!』という話がたくさんあって、本当にいろいろなことを教えてもらっています。でもまるっきり一緒じゃダメだと思うんです。フジメグさんがいて私がいる。近い存在だけど同じではない。それがどんな存在なのか。まだ明確には分からないですが、私はそういう存在を目指しています」
 RENAにとって「Girls S−cup」世界3連覇はレジェンドへの道のりの第一歩だ。

RENAが見せたいのは進化し続ける姿

「未来の選手と戦う」とは言うものの、決して今の対戦相手を舐めているわけではない。修斗のスター選手だった佐藤ルミナと合同練習をするなど日々進化し続ける姿をファンに見せる 【t.SAKUMA】

「過去に調子に乗っていたこともあって、それで何回も痛い目にあってきた」と自嘲気味に過去の自分を振り返るRENAは「私自身のモチベーションが未来の選手に向いているだけで、対戦相手の対策は立てているし、目の前の相手をしっかり倒します。誰と戦うことになっても対戦相手を舐めるようなことは絶対にないです」と続けた。

 モチベーションの向かう先が“未来”であっても、倒すべき相手が“現在”にいることは誰よりもRENA自身が分かっている。今回の「Girls S−cup」でRENAが見せたいものは進化し続ける姿、そしてMIOとのダブル優勝だ。
「今回のトーナメントは結果はもちろん内容も問われると思います。あと私は落ちたくないんですよね。『RENAってもうダメだね』じゃなくて、誰が勝ち上がってきても『RENAに勝てるか?』と思われるような試合をしたいです。
 先日、専門誌の企画で佐藤ルミナさんと技術交流させていただいて、ルミナさんに絞め技・関節技のアドバイスをいただいて感覚を掴みました。MMAの選手とSBの選手の絞め技・関節技の質が違うので、技の一つ一つが深くなりましたね。普段やらない練習をすると楽しいですし、頭も柔らかくなって、いろいろなことに気付かせてもらいました。今回、勝ち上がってくるであろう対戦相手を想定した練習もしているし、3試合ともすべて違う戦い方・スタイルで勝つことを考えています。
 MIOも過酷なトーナメントで心配なんですけど、2012年の時のようにそれぞれ頑張ってMIOが優勝して、私が優勝する。最後は私の大会として締めくくりますけど、2014年もRENAとMIOで大会を飾りたいですね」

前人未到の場所へ「どんな状況でも頑張れる」

「これから先、私の実績を超える選手が出てくるのか、それとも出てこないのか」。新たなモチベーションを未来の選手に定めたRENAの戦いぶりに注目だ! 【スポーツナビ】

「Girls S−cup」は国内の女子格闘技イベントで最大規模を誇る大会と言っても過言ではない。そこでRENAがどんな活躍するか。それはすなわち女子格闘技全体の盛り上がりにつながるはずだ。RENAは自らにかかる期待を理解した上で「最近思うのは私一人じゃダメなんです。そして女子だけじゃなくて男子が頑張らないと余計にダメ。女子だけが頑張ってもある程度のところで盛り上がりが止まっちゃうんです。男子が頑張って輝いているからこそ、それとは別で女子が輝く。もちろん私自身、必死で頑張っているし、やれることは精一杯やります。でもそれだけでは足りない。女子も男子もみんなで頑張らないと何も変わりません。もっと意識の高い選手にどんどん出て来てもらいたいですね」と男子・女子だけではない広い視野で格闘技界を捉えている。

 どちらに勝敗が転ぶか分からない。勝者と敗者を分けるギリギリの境界線に立った時、RENAはこんなことを考えて戦っているという。
「ここでもうちょっと頑張れば未来が広がる。あと30秒頑張れば人生が変わるかもしれない。そう思ったら私はどんな状況になっても全然頑張れます」
 これからRENAが進もうとしている道は伝説を残す道、前人未到の場所に到達するための道だ。しかし、未来への想いが強ければ強いほどRENAというファイターは大きな輝きを放つことだろう。
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著者プロフィール

福岡県久留米市出身。プロレスファンから格闘技ファンを経て2003年に格闘技WEBマガジンの編集部入りし、2012年からフリーライターに。スポーツナビではその年の青木真也vs.エディ・アルバレスから執筆。格闘技を中心に活動し、専門誌の執筆、技術本の制作、テレビ解説も務める。

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