ネイマール「夢は終わったわけじゃない」 神様がブラジルに授けた喜びと困難

大野美夏

ドイツに勝つのは難しいが、不可能はない

ヘリコプターで合宿所を後にするネイマール。手を挙げてサポーターの声援に応えた 【写真:ロイター/アフロ】

 準決勝にたどり着くまで、今大会のブラジルは決して簡単に勝ち進んできた訳じゃない。それだけでも大きな障害を乗り越えてきた。ネイマールなしで優勝できるか?

 一つの答えは、「ブラジルよりも組織的で良いゲームをしているドイツに勝つのはかなり難しい」だ。スコラーリ監督が今のセレソンを指揮しているよりもずっと長く、ドイツのヨアヒム・レーブ監督はドイツ代表を指揮している。ブラジルは元々ネイマールがいても、最強チームにはなっていない。

 そして、もう一つの答えが『不可能はない』だ。62年のW杯チリ大会、ブラジルは2試合目で主力選手のペレをけがで失った。それでも、代わりに入ったアマリウドとガリンシャがチームを引っ張り見事優勝をもたらした。

 ペレはネイマールのニュースを聞いて「チリ大会の時の自分を思い出した。私も途中から戦線離脱したが、神様はブラジルに優勝を授けてくれた。どうか今回も同じことが起こって欲しい」と言った。しかし、アマリウド本人は「あの時は、ペレが抜けても代わりになるクラッキ(名選手)が何人もいた。私はかねてからペレの代わりにプレーしていたので何の問題もなかった。しかし、今回はネイマールに代わるクラッキがいない」と悲観的な見方をしている。

 それでも、「テクニック的に同じクオリティーを持っていない選手でも、ネイマールと同じくらいの強い意思、力、勇気を持ってやれば、チームに別の力を与えることになるだろう。」とエールを送った。

ネイマールのために必死で戦う

天に感謝するネイマール。災難も喜びも、すべて神様の思し召しだ 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】

 ネイマールはコロンビア戦後、チームと一緒に合宿所に戻ったが、翌日ヘリコプターで自宅に戻った。この先約1カ月、コルセットをつけて安静にしていれば回復すると診断され、決勝戦にも間に合わせることは不可能だ。

 合宿所を後にする前、ネイマールは泣きはらした目をしながらCBF(ブラジルサッカー連盟)のサイトを通して国中にメッセージを送った。「W杯の決勝に出るという夢はかなえられなくなった。でも、優勝するという僕の夢は終わったわけじゃない。仲間達がきっと夢をかなえてくれると信じている。心は一緒だ。きっとブラジルの国民みんなで優勝を喜びあおう」

 マイコンは「全員がネイマールの分も必死に走って戦う」と話し、ドイツ戦は出場停止となったチアゴ・シウバは「反骨精神を見せてやろう。ネイマールのために優勝してやるんだ」と誓った。

 ネイマールの努力を認めているメディアも世論もけがを悲しんでいる。しかし、同時にネイマールの選手人生が終わったわけではないことも分かっている。神様はそんな残酷なことをした訳ではないのだ。サッカー選手の人生にけがはつきもの。あれほど執拗(しつよう)なマークや、厳しいチャージを受けながら、これまで大きなけがが無かったことはある意味奇跡的だったのかもしれない。

『全ては偶然じゃない。神様は何か意図を持ってこうなさった』

 災難も喜びも、すべて神様の思し召しと人々は言う。

 ブラジルW杯前、信心深いネイマールは腕に“Fé(フェ=神様への信心)”という言葉を彫っていた。これまでも神様が与えた試練を彼は受け入れてきた。だからこそ、けがの苦しみと試合に出られない悲しみがどれほど大きくともけがを負わせたフアン・スニガに対しての恨みは一切残さなかった。

 セレソンが決勝戦に進んだとしてもネイマールはピッチにいない。しかし、心はきっとチームメートと一緒だ。それだけの努力を彼は今までやってきたのだから。神様は分かっている。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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