新時代に突入しそうなW杯後の移籍市場 プレミアで活躍しそうな若手選手たち

東本貢司

「ミニ・メッシ」の移籍に感じるニューブームのきっかけ

ブラジルW杯で盛り上がっている最中、スコットランドの“2戦級”クラブから、スポルティング・リスボンへの移籍が決まったライアン・ゴールド 【Getty Images】

 感動することがめっきり減ってしまうと、それこそ老化の何よりの証拠だというが、久しぶりに本物のドキドキ、わくわくに襲われている。
 つい先日来の「コロンビア対ウルグァイ」「ベルギー対米国」……も確かにその一部かもしれないが、そんな“見え透いた”感動と興奮よりもずっと泡立つような胸騒ぎを覚える、その意義深い事実とは?

 ワールドカップ(W杯)ブラジル2014の決勝トーナメント1回戦の8試合が完結したちょうどその頃、大西洋の向こうで新しい時代の幕開けを告げるようなニュースが“業界”の耳目を集めた。

 スコットランドはダンディー・ユナイテッド所属、ライアン・ゴールド(18歳)の、スポルティング・リスボン(ポルトガル)入団契約締結の報である。

 無名のティーンエイジャー、しかも、スコティッシュ・プレミアの中堅クラブ(ということは、この世界では“二線級”、もしくは、国際的に“弱小”の部類)所属の、まだ同国U−21代表に抜てきされて間もない少年が、ルイス・フィーゴやクリスティアーノ・ロナウドを輩出したポルトガルを代表する名門に引き抜かれたのだ。

 身長170センチ、人呼んで「ミニ・メッシ」と評判の逸材――うかつにも初耳だった。とりもなおさず動画サイトで確認してみたところ……確かに新時代を予感させるまっさらな華を感じて、まさにドキドキわくわく――移籍金は“控えめ”な300万ポンド(約5億2500万円)。
 しかし、契約の時点で 『buy−out clause(=将来的に他のクラブが買い取る場合の移籍金最低額)』が設定され、それがなんと4800万ポンド(約84億円)というから、ゴールドに対する評価と期待がいかに桁外れなのかを物語っている。

 英国産のまだうら若い“未完”のプレーヤーが海外のビッグクラブに買われる事例はこれまでも数例あった(例えば、数年前にバイエルン・ミュンヘンが契約したデイル・ジェニングズ)が、ゴールドほどのホットな注目度はおよそ前代未聞だ。そして、この事件は今後、海外のクラブのスカウトの眼が、イングランド、ウェールズ、アイルランドの有望な「将来のスター」発掘に動くというニューブームのきっかけになる可能性もある。

ユーロ96以降の“大物獲り”が招いた実情

今大会最大のブレイクを見せているコロンビアのハメス・ロドリゲス(中央)。スペインのチームに興味があると話しているが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 つい先ほど、なりふり構わぬ“王国”ブラジルの肉弾チェック作戦の前に敗れ去ったコロンビア。そのシンボルスター、22歳のハメス・ロドリゲスのはちきれんばかりの才能に心奪われた人も多いだろう。

 その昔、「ミュンヘンの悲劇」で失われた平均年齢25歳未満の超フレッシュ軍団『バズビー・ベイブズ』までさかのぼって、若さはいつの日も希望と憧れの対象であってきた。J・ロドリゲス、ゴールド、さらには逆襲を期すマンチェスター・ユナイテッドが1年越しの恋を実らせて獲得したアンデル・エレーラ、そしてルーク・ショー……2014年の夏、何かとてつもなく大きな波が押し寄せてきた予感がする。

 96年のユーロ(欧州選手権)イングランド大会以来、プレミアを中心とするイングランドのクラブは、先を争って海外の、それも名の知れた大物プレーヤーの、招聘(しょうへい)、獲得に躍起となってきた。それが今や、外国人比率が過半数を占めるという、本質論からすれば実にいびつでアンバランスな環境を呈することになり、ひいては、国産の優秀な若手がなかなか育たないという、特に代表チーム強化の観点からすれば、実にもどかしい“夢のない”現実を招いてしまっている。

 果たしてその内情はと言えば、彼ら“大物”を引き寄せ、つなぎ止めるための高額俸給が、必然的にクラブ財政を著しく逼迫(ひっぱく)させ、そのあおりで、続々と名乗りを上げる海外の金満実業家、投資家(グループ)の参入を“歓迎”せざるを得ない実情にもなっている。

「FFP」で歯止めがかかる移籍市場

 しかし、そんなプレミア“バブル”(および、その追従“発展版”組、例えばパリ・サンジェルマン、モナコ、ガラタサライ……)を憂慮したUEFA肝煎りの「ファイナンシャル・フェアプレー制度(FFP)」発動で、今後はそんなあられもない大バラマキ補強ブームにも歯止めがかかる。

 言い換えれば、新戦力リクルート方針に抜本的見直しと変革が要求される。その1つの回答が若い「スター未満」の発掘に行き着くのは、必然の流れと言っていい。これまでもあった“青田刈り”的・先行投資(特に、アーセナル、チェルシー、マン・ユナイテッドで顕著)と根本的に異なるのは、そこに「養成」の文字がかすんで見えることだ。つまり「ほぼ即戦力」のヤングフォースに的が絞られる傾向である。

 そんな最中、通を自認するファン以外も含めて、世界の眼が集まる『一大ショウケース』、W杯本大会、その最新劇場“王国ブラジル”における「まったきニュースター、ハメス・ロドリゲスの登場」と、それに呼応するような「ライアン・ゴールド事件」は、見事なまでに対を成して、新時代の要請、方向性をずばり喧伝(けんでん)してはいないだろうか。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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