コスタリカが“死の組”を突破できた訳 スタイルを貫き、新たな歴史を築けるか?

池田敏明

日本戦で露呈していた弱点はどこへ?

ウルグアイとイタリアを撃破し、決勝トーナメント進出を決めたコスタリカ。彼らはなぜ“死の組”から抜け出すことができたのか 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

“死の組”と言われたワールドカップ(W杯)ブラジル大会のグループDを最初に突破したのは、W杯優勝4回のイタリアでも、前回大会4強のウルグアイでも、“サッカーの母国”イングランドでもなく、国際大会で何の実績も持たないコスタリカだった。

 初戦はウルグアイに1点のリードを許しながら、後半に3ゴールを奪い逆転勝ち。2戦目は組織的な守備でイタリアを封じ込め、ブライアン・ルイスが挙げたゴールを守り切った。こんな展開になるとは、誰も予想できなかったはずだ。筆者は今までにコスタリカの試合を数多く見てきたが、この2試合はいずれも彼らにとってのベストバウトと言えるものだった。彼らはなぜ、格上と見られていたウルグアイとイタリアを撃破することができたのか。決勝トーナメントでも、その躍進を続けることはできるのだろうか。

 ウルグアイ戦が行われる直前に掲載したコラム(※関連リンク「『死の組』のカギを握るコスタリカ」参照)で述べた通り、従来のコスタリカにはいくつかの弱点があった。

・後半半ばを過ぎると集中力が途切れやすくなる。
・守備が後手に回りやすい。
・選手層が薄い。

 日本とのテストマッチ(1−3)をご覧になった方なら、上記のウイークポイントを理解していただけるはずだ。コスタリカはこれまで、ほとんどの試合でこれらの弱点を、かなり致命的な形で露呈していた。

高い集中力を生んだ守備の意思統一

 まず集中力に関してだが、ウルグアイ戦、イタリア戦では最後まで途切れることがなかった。それが如実に表れたのが、最終ラインの見事な統制だ。コスタリカは、現在では珍しい5バックを採用している。両ウイングバックは攻撃時には果敢に攻め上がるものの、守備をすべき場面では中央に陣取るジャンカルロ・ゴンサレスを中心に一直線のラインを形成し、GKケイラー・ナバスとの距離が開きすぎない絶妙な距離を保っていた。イタリア戦ではこのラインコントロールが功を奏し、11回ものオフサイドを記録した。コスタリカの地元紙『アル・ディア』のWEB版には「コスタリカ代表、オフサイドのエキスパート」という見出しの記事が掲載されており、その中でこれだけのオフサイドを取れた要因として、国内リーグのカルタヒネスというクラブで指揮を執るマウリシオ・ライト監督の談話を掲載している。「十分にコミュニケーションを取ることが重要だ。その上で選手たちの意思を統一しなければならない。高い集中力が必要だし、多くの時間をかけて練習する必要がある」

 先の日本戦では、ここまで見事なラインコントロールはできていなかった。ボールを持つ日本の選手に釣り出されてギャップが生まれ、そこを突かれる場面が何度もあった。本大会を迎えるにあたり、DF陣の間でどのような守備をするべきかという意思統一がなされ、限られた時間の中でひたむきに反復練習を行うことで、強豪相手に通用するレベルにまで磨き上げたと考えられる。そして、その守備が機能したからこそプレーに余裕と自信が生まれ、90分間を通じて高い集中力を保つことができた。

強い信頼関係で成り立つ前線からの守備

 最終ラインが乱れなかったもう一つの理由として、中盤や前線からの守備が機能したことが挙げられる。これは、守備が後手に回るという弱点の克服にもつながるものだ。従来は中盤でのプレスがかからず、なおかつ最終ラインもズルズルと下がり、相手の突破を易々と許していた。そしてパニックに陥り、明らかなレイトタックルでFKやPKを献上したり、セーフティーにクリアすればいい場面で無理につなごうとして相手にボールを渡したりと、傷口をさらに広げるプレーを見せていた。

 しかしウルグアイ戦、イタリア戦では、ジョエル・キャンベル、ブライアン・ルイス、クリスティアン・ボラニョスの3トップが前線からプレスをかけ、ダブルボランチのセルソ・ボルヘスとジェルトシン・テヘダが相手の前に立ちはだかって攻撃を遅らせる。そして、複数で囲い込んでボールを奪うという守備戦術が効果を発揮した。隙を突いて的確なタックルを繰り出し、奪ったボールは素早く丁寧につないで一気に攻守を切り替え、得意のカウンターを繰り出す。派手なプレーを見せようとか、個人で目立ってやろうといった色気は見せず、全員が忠実にチームプレーをこなすことによって、見事なまでの機能美が生み出されていた。

 1月に負った大ケガが原因でW杯出場を断念し、母国で家族とともに過ごしながら試合を観戦したブライアン・オビエドは、連動した守備が機能した要因として「選手相互の信頼関係」を挙げている。「コスタリカは相手に強烈なプレッシャーをかけ、ピッチ上でエネルギッシュな動きを見せ、それによってゲームをコントロールすることができた。そのようなプレーを続ける上で、信頼関係は大切な要素だ。コスタリカはこの点でイタリアやウルグアイを上回っていた」。オビエドに加え、大会直前には絶対的エースだったアルバロ・サボリオまで負傷で失ったものの、それによって逆に団結力が高まり、強い信頼関係が生まれたのかもしれない。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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