無残に散った王者スペインの敗因 不安視されていた懸念材料が表面化

工藤 拓

失敗に終わったFWの人選

オランダ、チリに連敗を喫し、まさかのグループリーグ敗退となった前回王者スペイン。イニエスタ(右)も肩を落とす 【写真:ロイター/アフロ】

 オランダに1−5、チリに0−2。まさかの2連敗で今大会の敗退第一号となった前回王者スペインの散り際は、あまりにもあっけないものだった。

 奪った得点は疑惑のPKによる1点のみで、失点は7という散々な結果に終わった。失態の要因について、試合後のビセンテ・デル・ボスケ監督は「早急に結論を出したくない。確かな答えを導き出すための時間を設けるべきだ」として言及を避けた。だが実際のところ、スペインがこの2試合で露呈した問題はいずれも戦前から不安視されていた懸念材料ばかりだった。

 2試合ともに顕著だったのはフィジカルコンディションの悪さだ。デル・ボスケ監督はけがで2カ月実戦から離れていたことを理由にヘスス・ナバスの招集を見送ったが、彼と同様の状態にあった選手は他に何人もいる。

 その筆頭はジエゴ・コスタだ。4月半ばから筋肉系の故障を繰り返してきた彼は、コンディションが万全でないだけでなく、チーム戦術を消化し、周囲との連係を築く時間がないまま本大会を迎えた。そんな選手を招集したこと自体が1つの賭けだったのだが、さらに2試合ともに先発起用するのはリスクが大きすぎた。

 その結果、ジエゴ・コスタは周囲の“ペケニョス(小人たち)”を生かし、自身も生かされる連動した崩しができなかっただけでなく、ディフェンスラインの裏に流れてのボールキープ、強引なドリブル突破やシュートといった彼本来の持ち味すらほとんど出すことができなかった。そんな彼が残した唯一の功績、オランダ戦のPK獲得が2試合を通して唯一のゴールとなったことは皮肉な話である。

 ジエゴ・コスタの連係不足を補う手段としては、アトレティコ・マドリーのチームメートであるダビド・ビジャやコケ、フアンフランを同時起用するのも1つの手だった。だがこの2試合で起用されたアトレティコ組はチリ戦の後半にプレーしたコケのみ。それもジエゴ・コスタが64分にベンチへ下がってしまったため、2人がともにピッチに立った時間は20分にも満たなかった。

 ビジャが長期離脱した2011年以降、常に議論の対象となってきたセンターFWの人選において、デル・ボスケ監督はさまざまな選手を用いながら結果を出し続けてきた。だが2試合ともにジエゴ・コスタに代わって途中出場したフェルナンド・トーレスが何もできなかったことも含め、今大会の人選は失敗に終わったと言わざるを得ない。

 今回デル・ボスケ監督はジエゴ・コスタより計算できる常連組のフェルナンド・ジョレンテとアルバロ・ネグレドを招集せず、チャンピオンズリーグ(CL)決勝や直前の強化試合で全盛期に近いキレを見せていたビジャには1分も出番を与えなかった。またユーロ(欧州選手権)2012で結果を出したセスク・ファブレガスを“ファルソ・ヌエベ”(偽の9番)として起用することもなかった。

不調を引きずったバルサ組とメンタル面に問題があったレアル組

 とはいえ、もちろんスペインの敗因がセンターFWの出来だけにあったわけではない。ポゼッションスタイルの中核を担うバルセロナ組の不調も大きな要因の1つだ。

 特にジェラール・ピケとジョルディ・アルバは開幕直前の強化試合でプレーするまで1カ月以上けがで実戦を離れ、100パーセントの状態に至らぬまま本大会を迎えた。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ペドロ・ロドリゲスらも主要タイトル無冠に終わった今季の低調なパフォーマンスをそのまま代表に持ち込んだ印象で、軒並み動きが重く、判断スピードの遅さが目についた。

 CL決勝に勝ち進んだことでアトレティコ組とともに合流が遅れたレアル・マドリー組については、懸念されていたフィジカルコンディションではなくメンタル面に問題があった。

 チリ戦後にシャビ・アロンソが「貪欲さ、野心を保つことができなかった。メンタル面で万全の状態になかった」と認めていた通り、悲願のデシマ(CL10度目の制覇)獲得を成し遂げて間もない彼らは、他の選手たちと比べて気持ちの面で戦える状態になかった印象がある。

 中でもCL決勝に続き、信じられないミスを繰り返したイケル・カシージャスはあからさまに集中力が欠けていた。もともと疑問視されていたハイボールへの対応の悪さに加え、得意の1対1でも我慢できず淡白に飛び込んでかわされるシーンが多かったのは彼らしくなかった。

 CL制覇の立役者となり、一躍バロンドール(世界年間最優秀選手賞)候補にまで浮上したセルヒオ・ラモスにも同じことが言える。緩慢なプレーが目立った彼にリスボンで見せたほどの執念があれば、少なくともオランダ戦であそこまで守備が大崩れすることはなかっただろう。スペイン以上に高さに欠けるチリに対し、彼が空中戦で脅威となれなかったのも不思議だった。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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