無残に散った王者スペインの敗因 不安視されていた懸念材料が表面化

工藤 拓

ナバスの代役不在の影響も大きく

デル・ボスケ監督(写真)にとって最大の誤算だったのはナバス役の不在だった 【写真:ロイター/アフロ】

 エース候補は不発に終わり、バルセロナ勢は動けず、レアル・マドリー勢は心ここにあらず。そんな状態で失点を重ねるチームに対し、デル・ボスケ監督は有効な打開策を提供することができなかった。

 ジエゴ・コスタの不発とともに、デル・ボスケ監督にとって最大の誤算だったのはナバス役の不在だ。彼は就任当初より常に純正のウイングを攻撃オプションとして重用してきたにもかかわらず、ナバスが欠場した際の代役を用意していなかったからだ。

 ディエゴ・カペル、クリスティアン・テジョら過去に招集した選手はその後伸び悩み、サプライズ招集が期待されていたヘセ・ロドリゲスはひざを壊してリハビリ中。そのためナバスの招集が厳しくなってきた本大会直前に急きょジェラール・デウロフェウを招集したものの、彼はプレリストに入れていなかったため登録がかなわなかった。

 ナバス役が不在となれば、サイドをえぐる役割は両サイドバックに委ねるほかにない。だが、けが明けのアルバは精彩を欠き、右の定位置をつかんだセサル・アスピリクエタは萎縮して攻め上がりを躊躇(ちゅうちょ)したため、有効なサイド攻撃はほとんど見られず。結果として攻撃は、相手が3人のセンターバックを並べる中央の密集地帯から仕掛けるほかになくなり、クロスのターゲットとなるジエゴ・コスタを前線に置いておく価値も半減することになった。

“ティキタカ”スタイルで有終の美を

 あらためて振り返ると、今大会のスペインにはこれほど多くの問題があったのだ。それでも以前の彼らには、正確無比なパスワークによって中央の密集地帯をかいくぐり、ゴールをこじ開ける力があった。だから彼らはかたくなに自分たちのスタイルを貫くことで4年前の成功を繰り返そうとしたのだが、もはや今のチームにイメージ通りのプレーを実行する力はなかった。それは先述してきた自分たち自身の問題に加え、対戦相手による研究と対策が進んでいるからでもある。

「今日、われわれが偉大なチームをコントロールすることができたのは、この試合に向けて以前からさまざまなシステムを試してきたからだ」
 史上初めてスペインを下した直後の会見にて、チリのホルヘ・サンパオリ監督はそう言って胸を張った。

『打倒スペイン』を掲げて策を尽くしてきたライバルに対し、前回王者は心技体のすべてにおいて万全の状態を整えぬまま、それでも勝てるという過信を持って今大会に臨んでしまった。それは批判されてしかるべき失態である。だが、それでこれまで彼らが成し遂げてきた功績が色あせることもない。

「このグループにこのような終わり方はふさわしくない。未来のことを考え、できる限り良い形で大会を終えなければならない」
 試合後、カシージャスが言っていた通り、消化試合となるオーストラリアとの第3戦では近年われわれを魅了してきた“ティキタカ”スタイルをもって、有終の美を飾ってもらいたい。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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