9cmVに見たジャスタウェイ世界一の凄み 凱旋門賞が射程に入る大きな一歩に
ジャスタウェイは今回の勝利で通算19戦6勝(海外1戦1勝含む)。重賞は2012年GIIIアーリントンカップ、13年GI天皇賞・秋、14年GII中山記念、同GIドバイデューティフリーに続く5勝目。騎乗した柴田善は1993年ヤマニンゼファー以来となる安田記念2勝目、同馬を管理する須貝尚介調教師は同レース初勝利となった。
なお、ハナ差の2着グランプリボスからさらに3馬身差の3着には、北村宏司騎乗の10番人気ショウナンマイティ(牡6=栗東・梅田厩舎)が入った。
30年目のベテラン柴田善「本当に凄い!」
「いやあ、凄い、本当に凄い!」
冷静沈着な柴田善が、珍しく興奮していた。ゴール前最後のひと伸びは、今年で騎手生活30年目を迎えた大ベテランすらも痺れさせた。
「何度かこの馬場に脚を取られて、もう諦めても仕方ないくらいにバランスを崩したところもあった。でも、ジャスタウェイは諦めないで最後まで前の馬を抜かしてやろうという気持ちで走っていた。さすが、世界一の馬だなと思いましたね」
着差はハナ、わずか9センチ。昨年の天皇賞・秋、そして今年春のドバイデューティフリーで見せたような、2着馬を何馬身も突き放す爆発的な勝利ではなかった。だが、この悪条件の中での9センチ差の勝利こそが、ジャスタウェイという馬の底知れなさ、そして恐ろしさをより一層際立たせたのではないだろうか。少なくとも僕には、世界No.1のレーティングを獲得したドバイ以上の“凄み”を、このレースで感じた。須貝調教師がレース後、噛みしめるようにこう話していた。
「世界一の能力、貫録、精神力、そのすべてを示したレースだったと思います」
勝負の4コーナー、やむなく馬場の悪いインに
「まずは、うまくゲートを出してあげること。能力があるのは分かっているので、あとはどこからでもと思っていました。馬場も特に気にする様子もなかったので、安心していけましたね」
3歳馬ミッキーアイルが引っ張った前半の800メートルは47秒1。この不良馬場を考えれば、相当に速い。そんなハイペースの中、「手応えよく回ってこれた」と脚をじっくりタメていた柴田善とジャスタウェイ。主戦・福永祐一の騎乗停止により急きょ回ってきた手綱とはいえ、これが3回目のコンビ。勝手知ったる仲と言わんばかりの一体感を見せていた。
ただ、誤算がなかったわけではない。それは勝負どころ、4コーナーでの出来事だ。見るからにボコボコと荒れている最後の直線のインは、さすがのジャスタウェイと言えども避けて通りたい。ところが……、
「できれば外のいいコースを通りたかった。でも、2着馬の手応えが良くて、外をガードされてしまったことで、やむなく悪い位置になってしまいました」
道中から終始、隣にぴったり張り付いていた三浦皇成のグランプリボスが、4コーナーでも大きな壁となり馬場コンディションのいい外に持ち出せない。ならば、と腹をくくった柴田善はインから追い出しにかかる。だが、先に抜け出したグランプリボスとの差は、詰まりそうで詰めきれない。ゴールまで残り100メートル、いや、50メートルになっても、まだ先頭はグランプリボスだった。