父フジキセキと最後の仔イスラボニータ=2頭の背中知る蛯名、ダービーの勝算は
「何より馬が落ち着いている」
イスラボニータは、馬学では理想的な『長腹短背(ちょうふくたんぱい)』と言われる体型 【netkeiba.com】
「何より馬が落ち着いているのが良いですね。調教から上がってきた時も、常歩でしっかりと歩いていましたし、チャカついた面もなくて好感が持てますね」
主戦の蛯名も、「テンションが上がらないようにと、厩舎サイドも僕も皆そういう意識でやってきたこともあり、馬もオンとオフがしっかりできるようになったのだと思います」と語っていたが、皐月賞後に放牧を挟んで、さらに精神面での成長を見せているのは確かなようだった。
イスラボニータのデビュー戦は、1年前の6月2日だった。
「遅生まれの馬ですが、東京の新馬でおろせたくらいですから、馬自体の完成度が高かったんでしょうね。その新馬戦に勝てたことで、その後の良い流れにつながったのだと思います」
栗田師の言葉通り、イスラボニータのローテーションを見ると、無駄に使ったレースは見当たらない。狙ったところを使い、そのたびに課題をクリアし、放牧に出てリフレッシュする。そしてスムーズに皐月賞に出走して、見事に栄冠をつかんで見せた。すべてが青写真通りに進んでいると言っても過言ではない。
気負わず、自然体を貫く栗田師
大一番を前にしても栗田調教師(中)は自然体のままだ 【netkeiba.com】
「皐月賞の時も、直線で鋭角的な出し方をしたのですが、それでも体を収縮させて走ることができるので、ジョッキーの指示にも瞬時に反応ができるようです。蛯名騎手は、この馬のことを、チーターに例えているみたいですね(笑)」
師は同馬を初めて見た時に既に「柔らかい歩様でしなやかな動きをする」ということに気づいていた。今ではそれが同馬の最大の武器になっているし、チーターのようなしなやかな走りは、距離が更に延びたダービーでも威力を発揮するに違いない。
過去にはグランパズドリーム(1986年)でハナ差の2着になるなど、栗田師はダービーで悔しい思いも味わっている。しかし、現在の師は常に淡々としていた。
囁かれる距離不安についても、「母の父がコジーンのわりには、背中が長いですから、距離は持つと思います。この馬は、馬学では理想的な『長腹短背(ちょうふくたんぱい)』と言われる体型ですしね」と、穏やかな表情を崩さないまま一蹴した。師の穏やかさ、気負いのなさは、イスラボニータという逸材に寄せる信頼度の高さから来るのではないかとも思った。
「とても恐れ多くて、二冠に向かって……とは言えないですけど、正攻法である程度良い位置につけてレースを進め、そこからどれだけ弾けるかですね」
ダービーに向けての最終追い切りを無事見届けた後、共同記者会見に臨んだ師は、時折笑みを浮かべながら、やはり自然体で応じていた。
「平常心で」という蛯名騎手と、気負いのない栗田師。人の気持ちや態度は馬に伝わると言われる。人間が自然体でいれば、馬も自然体でいられるはずだ。ダービーという大一番でもこれを貫くことできた時、イスラボニータ陣営に最高の結末が待っていることだろう。