大瀬良大地が持つ、田中将大らと同じ感覚 北別府学が認めるエースの資質

ベースボール・タイムズ

ルーキーながら8試合で5勝2敗・防御率3.09と期待以上のスタートを切った大瀬良。往年の大エース・北別府氏の評価も高い 【写真は共同】

 セ・リーグ首位を走る鯉軍団で背番号14のドラフト1位ルーキー右腕が躍動している。ここまで8試合で5勝2敗・防御率3.09。力強いストレートと確かな制球力、落ち着き払ったマウンドさばき……。将来のエース候補として大きな期待を背負う広島・大瀬良大地のピッチングを、同球団初の200勝を達成した往年の大エース・北別府学氏に聞いた。

前回8失点KOも「良い薬」 期待以上のスタート

――今季ここまで8試合で5勝2敗・防御率3.09の大瀬良大地投手。前回登板(5月24日、オリックス戦)では4回を9安打8失点(自責4)のプロ最短KOとなりましたが?

 前回の登板はボールが高かったし、逆球も多かったですね。捕手が要求するところにボールがなかなかいきませんでした。パ・リーグのバッターはストレートに強い。相手がそのストレートを待っているところへ、そのままストレートを投げて捉えられたという感じでしたね。そこまで5連勝していたわけですから、そろそろ打たれてもおかしくなかった。ひと休みですよ。たまには喝を入れられた方がいいですし、良い薬になるでしょう。大事なのは打たれた後、次の試合になりますね。

――その前の7試合では5勝1敗・防御率2.63。ドラフト1位での入団から期待通りの活躍を見せていました。

 期待以上かもしれませんね。1戦目、2戦目を勝てなくて、九里(亜蓮、ドラフト2位)の方が先に勝ったりして、本人も「あれっ」って思ったかもしれない。ですが、そこでズルズルといかずに3戦目でプロ初勝利。早い段階で勝てたことが大きかったですね。どの投手もそうですけど、何試合も勝ち星がつかない状態が続くと、どうしても「勝ちたい」という思いが先行して、結果を欲しがると守りのピッチングになる。そうなるとピッチングも小さくなって、それがまた勝てない要素にもなって、調子も落ちてきてしまいますからね。

――プロ3戦目、4月16日の阪神戦での初勝利から一気に5連勝を飾りました。

 運だけで勝っているという状況ではないです。内容のある勝ち方をしています。勝っていたころは打線も好調で点を取ってくれるので、大瀬良も少ない点を守り抜くのではなくて、どんどん攻めていける状況だった。それが良い方向にうまく回っていたと思います。マウンド上でも最初の方はニコニコしながら投げていましたけど、最近はプロらしい顔つきになってきて、戦う男の表情になってきましたから、頼もしいですよ。

ピッチングの“極み”を知る投手

――大瀬良投手のピッチングの組み立てという面ではどう評価しますか?

 基本的にはストレートを軸に、横に曲がるカットボールと勝負球的に使う落ちる系のカットボールの2種類を投げています。勝てている要因としては、そのカットボールをうまく使ってインサイドを強気に攻めていくことができているからでしょう。インサイドを攻めるためにはコントロールの良さも必要になります。コントロールが悪いと「もしかしたら甘くなるかも……」となって、どうしても攻めきれないですからね。大瀬良は突如として四球を出すようなタイプでもない(8試合で10四死球)ですし、自分の中でも困った時はこのボールを投げておけばストライクを取れるというボールを持っている。そういう意味では、勝てるピッチングパターンというものを持っている投手だと思います。

――北別府さんと言えば、現役時代は“精密機械”とまで呼ばれた制球力を持っていました。ボールをコントロールするために意識していたことは?

 インサイドとアウトサイドの投げ分け。インサイドはつま先に体重を乗せて、アウトサイドであればかかとに体重を乗せる。そういう体重配分や、その他にも自分の体の中で意識するところが何カ所かありました。それは自分自身でしか分からないですし、大瀬良もある程度会得しているでしょう。それに実際の試合ではストライクを3球投げても打者が3球とも振ってくるわけではないんですよ。初球の変化球は手を出してこないとか、ど真ん中ストレートでも場面によっては振ってこないだとか……。そういう状況を、マウンドの上で冷静に判断できるかどうかが大事ですね。

――大瀬良投手にはコントロールの良さと同時に、そういうマウンド上での落ち着きも感じますが?

 そうですね。新人なら誰でも“目いっぱい”というのが普通だと思いますけど、本人が「10の力を12にして投げるんじゃなくて、8割の力で抑える」と言っているように、ピンチになっても慌てることなく冷静に、ピンチになったら逆に「力を抜いて」投げることができています。プロで何年かやってきた投手のような考え方を持っているし、ピッチングの“極み”というものを知っていると思います。

――8割の力である程度抑えることができれば、勝負どころでの“ギアチェンジ”が可能になります。大投手と呼ばれる選手に共通する能力だと思いますが?

 そう思います。昔で言えば、江川(卓)さんですね。軽くかわしておいて、ここぞという時にビシッと投げる。田中将大もそうですよね。プロ入り当初はそうじゃなかったんですけど、年々ボールの力が増していく中で、そこまで目いっぱいに投げなくても抑えられるということに気がついて、さらに投手として大きくなりました。大瀬良もそういう感覚を持っています。いわゆる省エネピッチング。それができるピッチャーはシーズンを通して勝てる。大瀬良もプロ1年目ですけど、すでにそういう考えを持っています。ここまでも、目いっぱいでの5勝じゃない。しっかりとした裏付けのある5勝だと思います。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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