八重樫東、最強ロマゴン戦への決意=「負けるつもりはさらさらない」
対戦者がいない最強ボクサーへの挑戦状
強すぎて対戦相手がいないと言われる軽量級最強と名高いローマン・ゴンザレスを挑戦者に指名したWBC世界フライ級王者・八重樫。まだ対戦日は未定だが、ロマゴン戦へ向けて今の率直な心境を語ってもらった 【スポーツナビ】
「こんな僕ですけど、やってもいいですか?」
4月6日、アマチュア経験豊富な挑戦者オディロン・サレタ(メキシコ)を鮮やかな右カウンターからキャンバスに沈め、9ラウンドKO勝ちで3度目の防衛を遂げた東京・大田区総合体育館のリング上。WBC世界フライ級王者の八重樫東(大橋)はインタビューに応え、謙虚で茶目っ気のあるこの人らしく場内に向かってこう問いかけた。その直前には同じリングで前哨戦を行ない、3ラウンドTKO勝ちした当のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がリングに上がり、八重樫を祝福してもいた。決戦ムードは最高潮に盛り上がった。
八重樫が初めてローマン・ゴンサレスとの対戦を表明したのは2月13日、東京ドームホテルで行なわれたサレタ戦の発表会見の席上だった。“ロマゴン”の略称で知られるゴンサレスはWBAミニマム級、同ライトフライ級を制した元2階級制覇世界王者。39戦39勝(33KO)のパーフェクトレコードを誇る。その強さゆえに挑戦者が名乗りを挙げず、世界王者にも敬遠され、ここ2年で出場した世界タイトルマッチはわずか2戦。現在はWBC世界フライ級1位にランクされる軽量級最強ボクサーに対し、「それなら僕が」と果敢に勝負を挑む姿勢に称賛は集まった。
強敵相手にも「ハートは負けない」
ことし4月、3度目の防衛戦に成功した八重樫をリングに上がって祝福したロマゴン 【t.SAKUMA】
「負けたことがない選手だし、レコードを通してそれほど弱みを見せたことがない選手。要するに穴がないので対策を立てづらい。こうしたらこう返される、こう行ったらこうやられる。そういうパターンばかり浮かんで。必勝法というか、この流れがいいというのはないのかな、というのが最近よく考えること」
4月15日の練習再開初日から早速、松本好二トレーナーとイメージをすり合わせながら、本番直前のように熱のこもったミット打ちを披露した八重樫。以来、ロマゴン対策に試行錯誤を繰り返しているが「自分が持っているものをしっかり出すことも重要なポイントのひとつ」と戦いの原則は忘れていない。強敵相手に臆することなく力を出しきれるのは八重樫の強みでもある。
「多分、僕がロマゴンより優れているのはハートだけ。フィジカルで負けて、パンチで負けて、スピードで負けても、根性で負けるつもりはないし、絶対に最後まであきらめないですよ。ボクシングなのでもちろん体は大事なんだけど、試合までにしっかりとした気持ちをつくっていきたい」
そして、この“心”の部分こそが、八重樫を現在の地位まで引き上げたとも言えるのである。
「心技体が整ってこそ」に気付いた敗戦
国体優勝などの実績を引っさげ、プロデビューした八重樫。当時は「技術と体力の2つがあれば勝てる」と考えていたが… 【t.SAKUMA】
その後、再び世界を目指して歩み始めた矢先の08年7月、日本2位の辻昌建(帝拳)に判定負け。「世界の舞台に戻るまでにどれくらい時間がかかるのかと不安になった」というこの一戦が八重樫の転機となる。
「ボクシングは技術と体力。それまでの僕はそれだけでいいと思っていたし、辻さんにはその2点で負けているつもりはなかった。負けていたのはハート。そのハートに全部やられてしまったわけで。心技体のバランスが整ってこそだと気が付いた。それからは相手に気持ちの面でも上回ることを心がけました」