議論を増していくメッシの沈黙 裏に何か特別な事情があることは明らか

一番の問題は戦う姿勢が欠けていること

圧倒的なスピードとテクニックで、見るものを魅了するプレーは、大舞台で戻ってくるのか 【Getty Images】

 今季の開幕前、スポーツディレクターのアンドニ・スビサレッタはメッシと話し合いの場を設けたことは間違いない。その際メッシはW杯の存在を意識せずにプレーするのは不可能であり、年俸の減額を受け入れてでも6月に向けてコンディションを整えたいとの願望を伝えた可能性がある。もしクラブがそのことを公表したとしても、バルセロナとスペイン、引いてはフットボール界において歴史を作り続けているスターを批判する者はそう多くはなかったのではないだろうか。

 たった3試合不調が続いただけでスーパークラック(名手)を疑うべきではない、との意見には同意できない。問題はこの3試合で良いプレーができなかったのではなく、戦う姿勢が欠けていたことにあるからだ。ゆえに人々はその理由を知りたがっているのだが、その謎は明かされぬまま、ただ憶測ばかりが飛び交う状況が続いているのである。

その理由はブラジルW杯で明かされる

 ほんの数試合ではあるものの、メッシは決して期待を裏切らず、貪欲で、常にライバルに恐怖心を抱かせる選手であることをやめ、ピッチ上から姿を消してしまった。それは今季だけでなく、過去10年のスパンで見ても普通ではないことだ。

 これまで調子を落としたことなどなかった選手が、ピッチ上で無気力な姿をさらけ出している。その裏に何か特別な事情があることは明らかだ。メッシはプロであり、彼のプレーを見るために金を払っている観客たちには、少なくとも何が起こっているのかを知る権利があるはずだ。

 はたしてブラジルのピッチでは、これまで常に見る者を楽しませてくれたメッシのプレーが見られるのか。バルセロナが主要タイトル無冠に終わることが濃厚となり、W杯の開幕が間近に迫っている今、我々の疑問はそこにある。

 もしメッシがブラジルの地で本来の輝きを取り戻せば、議論の再燃は避けられない。それでも恐らく今よりは、我々の視界は良好になっているはずだ。逆にもしメッシがブラジルでも沈黙し続けたら、謎はさらに増し、無数の憶測が飛び交う状況が続くだろう。その時にはもう、それはバルセロナだけの問題ではなくなっているはずだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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