議論を増していくメッシの沈黙 裏に何か特別な事情があることは明らか

今季の不振はW杯と関係している

これまで調子を落としたことなどなかったメッシが、今季はピッチ上で無気力な姿をさらけ出している 【Getty Images】

 昨年10月27日、マドリー在住のアルゼンチン人記者ロドルフォ・キスレアンスキがある記事をスペインの一般紙『エル・パイース』に寄稿した。「メッシのことは忘れよ」というタイトルのその記事は国際的な議論を巻き起こし、数日後には同紙の中で他の記者から批判記事を書かれるに至った。

 その記事とは――
 今季のメッシはワールドカップ(W杯)へ向けた準備を最優先し、FCバルセロナを含めたその他のことはすべて二の次と考えている。
 4年に一度のビッグイベントを理想的な年齢(1986年大会の主役となったディエゴ・マラドーナは今のメッシとほぼ同じ年齢だった)で迎えることができる上、舞台は地元南米のライバル、ブラジル。この歴史的なビッグチャンスを控えている今の彼には、他のいかなる挑戦も比較の対象にはならない。ゆえに今季はケガをしないよう、コンディションを気遣いながらプレーしている。

 それがこの記事を通してキスレアンスキが訴えた意見だった。

 良いプレーができないだけでなく、まるでチームから切り離されたかのように試合から消えてしまう。シーズン終盤に生じたメッシの奇妙な沈黙は、そのことと関連しているのだろうか?

 レアル・マドリーとのスペイン国王杯決勝というビッグゲームにおいても破られることがなかったその沈黙の影には、確かにW杯の存在があるのかもしれない。ただそれは、複数ある要因のうちの1つと考えるべきだろう。

バルセロナの執行部に対する不信感も

 バルセロナの役員たちは、表向きにはメッシとの契約更新を近日中にまとめたいと公言しているものの、メッシは彼らの本当の望みがW杯後に自身を放出することではないかと疑っている。これは先日、マドリーに拠を置くスポーツ紙『アス』が報じた情報だ。

 メッシと最も仲の良いチームメートであるホセ・マヌエル・ピントが今季終了後に退団することは、決定的と見られている。メッシの推薦により獲得した同郷のハビエル・マスチェラーノも、チーム事情によってコンバートされたセンターバックでプレーし続けることを望んでおらず、執拗(しつよう)に口説かれているラファエル・ベニテス率いるナポリへ移籍する可能性がある。

 またサンドロ・ロセイがジョアン・ラポルタに代わって会長に就任して以降、現執行部はネイマールを旗手とした新たなプロジェクトを計画していると度々言われてきた。それが事実であれば、既にカルレス・プジョルとビクトル・バルデスは今季終了後の退団を明言、さらにダニエウ・アウベスやアレックス・ソングをはじめ複数の選手が彼らに続く可能性がある今夏は、チームを一新するには良いタイミングである。

 とはいえ、もちろんそのためにはFIFAから受けた1年間の補強禁止処分が取り消し、もしくは凍結される必要がある。そうでなければ来季バルセロナは現在とほぼ同じメンバーで戦わなければならない。

 不振の原因がW杯にあるのか、執行部に対する不信感にあるのか、その両方なのか。いずれにせよ、その原因が分からないからこそメッシの沈黙を巡る議論はここまで大きくなってしまった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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