リバプール24年ぶりの優勝へ一歩前進 プレミア創設以来最もオープンな三つ巴

寺沢薫

10連勝中のリバプールはレコードラッシュ

優勝争いをするマンチェスター・シティとの直接対決に臨んだリバプールは、コウチーニョ(右)の勝ち越し弾で勝利を収めた 【Getty Images】

 有利なのはマンチェスター・シティ。だが、勢いはリバプール。チェルシーもまだ終わっていない。活況に沸くプレミアリーグの優勝争いについて、先週末時点での定説はこうだった。しかし、リバプールがアンフィールドでの激闘を制し、シティを3−2で下したことで、“勢い”のリバプールは、とうとう数字の上でも優勝に最も近いチームとなった。『ウィリアムヒル』(大手ブックメーカー)の優勝オッズを見ても、試合前はシティ=1.73倍、リバプール=2.62倍、チェルシー=9.00倍だったのが、試合後にはリバプール=1.73倍、シティ=3.00倍、チェルシー=5.50倍に変わっている。復活の狼煙(のろし)を上げた名門は、果たして1989–90シーズン以来、24シーズンぶりのリーグ優勝を手に入れることはできるのか。

 まずはここまでの状況をまとめておこう。リバプールは開幕から安定した力を発揮し、実は昨年クリスマスの時点で一度首位に立っている。この時は直後のシティ、チェルシーとのアウェー2連戦に敗れ、1週間を待たずしてトップの座を明け渡している。それでも、2014年に入ってからの好調は目を見張る。年明け以降はプレミアで唯一の無敗を守り、ホームでエバートンに4−0、アーセナルに5−1、そして鬼門だったオールド・トラフォードでもマンチェスター・ユナイテッドに3−0で勝利を収め、3月30日にホームでトテナム・ホットスパーを4−0と一蹴し、4カ月ぶりに首位へと戻ってきた。

 その間、彼らは様々な記録を打ち立ててきた。2月8日アーセナル戦から現在まで続いている10連勝は、05−06以来となるプレミアでのクラブレコードタイ。ここまで34試合で93得点はクラブ最多記録。残り4試合で10得点できれば、プレミア新記録にも並ぶことができる。個人の記録では、ルイス・スアレスがここまで29得点を挙げ、ロビー・ファウラーが持つプレミアでのクラブレコードを塗り替えた。彼はここまでアシストも12本で、得点&アシスト両方でリーグトップと大車輪の活躍ぶりだ。また、その相棒となるダニエル・スターリッジもここまで20ゴール。リバプールで2選手が20得点の大台に乗せたのは実に50年ぶりの快挙で、頭文字から「SAS」と言われる彼らは2人だけで49ゴールを挙げ、38試合制になって以降のプレミアで最多得点ペアとなった。セットプレーが冴えわたるスティーブン・ジェラードも13得点10アシストと、33歳にしてキャリア初の“ダブル2ケタ”を達成。SASとジェラードはともに絶好調で、2月はスターリッジが、3月はスアレスとジェラードがダブル受賞でプレミア月間最優秀選手に輝いた。とにかく得点が止まらない今のリバプールは、たとえ3失点しても6得点できるチームだ。何をやってもうまくいく。リバプールは、まさにそんな状態だ。

世論はシティ優勝派が多数を占めていた……

 そもそも、ブレンダン・ロジャーズ政権2年目の今季、彼らの目標はあくまで「トップ4返り咲き」だった。過去4シーズンの順位が7位、6位、8位、7位と低迷し、チャンピオンズリーグ(CL)の舞台から遠ざかっていたことを考えると妥当なノルマだ。だからこそ、4月の時点で優勝を狙えるポジションにいるのは望外の結果と言える。だからこそ、現地識者の間でも、リバプールの勢いは認めつつも、優勝候補はあくまでシティという声が一般的だった。

 3月末、『BBC』(英国放送協会)のWebサイトでは、解説者5人のうち、4人がシティ、1人がチェルシーの優勝を予想した。同じく『ガーディアン』(イギリスの大手新聞)の記者7人による予想記事でも、シティ優勝が4人、チェルシー優勝が1人で、“リバプール推し”は2人だけだった。3月31日付けの『ザ・サン』(イギリスのタブロイド紙)では、元イングランド代表FWアラン・シアラーがこう綴った。

「リバプールのサポーターには申し訳ないが、私はまだシティが優勝すると思っている。ロジャーズのチームは、他のライバルたちのように優勝争いのプレッシャーを経験したことがない。彼らは今、『追う側』から『追われる側』に変わったが、首位に立つと重圧は急上昇する。あらゆるミスが高くつく。あらゆる新聞が彼らのことを書き、あらゆるファンが道で彼らのことを話し、監督は記者会見で大量の質問を受けることになる。それは私も経験したことだ」

 優勝争いのプレッシャー。リーグ優勝を経験した選手がいるシティやチェルシーと、それがないリバプールを分ける“違い”として最も懸念されているのが、この要素だ。『テレグラフ』(イギリスの新聞)では元リバプールのDFアラン・ハンセンも、「ここからは“失敗への恐れ”がタイトル獲得に向けた最大の障壁になる」と指摘している。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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