大学進学の桐生祥秀に新たな育成プラン 東京五輪に向け少しずつ進化する4年間に

石井安里

東洋大に進学した桐生祥秀(写真)。大学4年間の育成プランとは!? 【写真は共同】

 現役最速スプリンターの桐生祥秀が4月6日、日本武道館で行われた東洋大の入学式に出席、新天地でスタートを切った。大学生になったことを実感したという桐生は、「これまでの実績も、10秒01の記録も高校までのこと。大学では一からスタートする気持ちで、強さを求めて大きな大会で活躍したい」と決意を語った。

「速くなるため」に選んだ大学進学

 桐生は洛南高(京都)3年生だった昨年4月、織田記念の100メートル予選で、日本歴代2位、日本ジュニア新の10秒01をマーク。IAAF(国際陸上競技連盟)が主催するダイヤモンドリーグの英国グランプリ(同6月)やモスクワ世界選手権(同8月)など、海外のレースも経験した。あらゆる記録を塗り替えてきた彼が、さらなる飛躍の場として選んだのは東洋大だった。「自分が速くなるため。直感もありました」と理由を説明する。

 東洋大には今春、日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離副部長を務める土江寛裕氏が、法学部准教授としてコーチに就任。短距離部門の梶原道明監督とともに指導にあたる。「プレッシャーもありますが、それ以上に楽しみな気持ち。私と桐生との二人三脚ではなく、梶原監督の下、東洋大の短距離を今まで以上に充実させたい。全体としてムードを高めていくことが、桐生にとってもプラスになります」と土江コーチ。当初は、大学が3年前に創設した東京・板橋区の総合スポーツセンターを桐生の活動拠点にするという話もあったが、東洋大陸上部の寮とグラウンドがある埼玉県川越市に拠点を置く。

 桐生は2月に日本陸連によるオーストラリアでの研修合宿に参加するまで、洛南高でじっくり冬期練習を積んだ。昨年までの好成績は、洛南高でのトレーニングが実を結んだ成果だという、土江コーチの考えがあったからだ。3月7日からの世界室内選手権(ポーランド)では、60メートルで準決勝に進出。「一緒に走って負けた選手にも、自分の調子が上がれば勝てるのではないかと思えたし、前より世界で戦える気がした」と手応えをつかんだ。3月末は米国で合宿があり、同29日にはテキサスで日本チームの第3走者として4×100メートルリレーに出場。環境の変化はあったが、トレーニングは順調で、良い状態でシーズンインを迎えられそうだ。

1年目は桐生の意思を尊重

 大学でのデビュー戦は4月13日の岩壁杯で、4×100メートルリレーの3走を務める予定だ。個人種目の初戦は20日の出雲陸上100メートル。29日に織田記念、5月は11日のゴールデングランプリから関東インカレ、世界リレー選手権(バハマ・ナッソー)と大きな試合が3週続く。6月初旬には日本選手権もあるため、土江コーチは「遠くまで見据えて、その都度(出場するかどうか)判断したい」と話した。7月の世界ジュニア選手権(米国・ユージーン)、9月のアジア大会(韓国・仁川)の金メダルが、今季のターゲット。今年、国際舞台で結果を残すことが、来年の世界選手権北京大会にもつながるはずだ。特に世界ジュニアは、200メートルでは2010年に飯塚翔太(ミズノ、当時中大1年)が金メダルを獲得しているが、100メートルで金メダルを手にした日本人選手はいないだけに、桐生に懸かる期待は大きい。

 今季最初のピークは、織田記念に合わせる。昨年10秒01を出した大会とあって、桐生の思い入れも強い。冬期はスタートから中間走にかけて、スムーズに流れるように練習してきた。10秒01の時は、フィニッシュ前の数メートルで力んでしまったが、今では「スタートからうまく流れて、最後に力まなければベストの走りができる」と自信をのぞかせる。「自己記録を出したいという気持ちが大きい。9秒台は出る時に出ると思っているので、深く考えていません」と話した桐生。目前に迫った夢の9秒台に注目が集まるが、気負いはない。桐生の口からも「9秒台」という言葉は出てきたが、意識せず、ベスト更新に全力を尽くすというスタンスだ。それが、桐生祥秀という類まれなスプリンターの強さだろう。

 土江コーチは桐生のことを、“独特な感覚の持ち主”と評した。1年目の今季は、まずは桐生を知りたいという。「大切なのは、彼がどんな練習をしたいか、どんな感覚を持っているか。あれこれ指示するのではなく、彼の中でこんなふうにしたい、という考えがあって取り組んでいるので、そこに私がアドバイスを加えていきたい」と桐生の意思を尊重する方針だ。現在、桐生がやろうとしていることについては、具体的には明かされなかったが、今シーズン終了後の冬期練習からじっくりと時間を使い、技術面の課題に取り組んでいく。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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