常に“中心”に君臨する唯一無二の司令塔 福西崇史のボランチ分析 ピルロ編

北健一郎

元日本代表の福西崇史氏がブラジルW杯で注目のボランチを紹介。今回はイタリア代表のピルロを分析する 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会が近づいてきた。“スペシャル”な熱気と感動を毎日感じることができる、4年に一度の祭典。今大会はどのようなドラマが繰り広げられるのだろうか。

 国と国のプライドがぶつかり合う真剣勝負の戦いで、勝利を手繰り寄せる要因はほんのわずかな“違い”。その“違い”を試合の中で創造し、攻守において要となるのがボランチというポジションだ。これまでW杯を制したチームには必ずと言っていいほど優秀なボランチを擁していた。今大会もイタリアのアンドレア・ピルロ、スペインのセルヒオ・ブスケツ、そして日本と同じグループに入ったコートジボワールのヤヤ・トゥーレら、さまざまなタイプの選手のエントリーが予想される。

 そこで、日本代表のボランチとしてW杯に2回出場した経験を持つ解説者・福西崇史氏にブラジル大会で注目の上記3人のボランチを分析してもらった。
 前回のY・トゥーレ編に続き2回目となる今回は、唯一無二の司令塔ピルロ編をお送りする。

攻撃的、守備的ではなく「中心的」

 私はボランチのことを攻撃的とか守備的といったワードでくくるのはあまり好きではない。現代サッカーにおけるボランチは攻撃においても守備においても、チームの中心となってプレーすることが求められるからだ。攻撃的、守備的ではなく「中心的」。これがボランチのあるべき姿だと思う。

 ピルロはまさしく「中心的」な選手だ。ユベントスでもイタリア代表でも、ほとんどの攻撃がピルロを経由して始まる。ピルロがいなくなれば、別のチームになってしまうと感じるほどだ。

 ピルロのプレーを見ていると、どこにでもパスを出せるポジションにいることが分かる。まさにピッチの真ん中にいるのだ。ピルロがサイドでボールをもらったとすれば、パスの角度は限定されてしまう。だが、中央にいることによって全方位にパスを展開することができる。ユベントスやイタリア代表の攻撃がピルロからスタートするのは、ピルロにボールが集まってくるからだ。ボールを奪ったとき、味方の選手はまずピルロを見ることが約束事になっている。

 味方から信頼されているのでパスが集まってくるという側面はもちろんあるが、ただ待っているだけではパスはもらえない。当然、守備側は攻撃の起点がピルロだということは分かっているので、パスコースを消そうとする。しかし、ピルロはスッと動き出してフリーの状況を作ってしまう。ピルロの動き出しは、相手の選手がピルロを見るよりもちょっとだけ早い。自分たちのボールになるかならないかのタイミングで、パスをもらえるポジションに移動を始めている。つまり、守りながらも常に自分たちのボールになったあとの展開を考えているのだ。守る側は相手ボールになった時点でピルロのマークを始めるので、その時点ですでにピルロは良いポジションをとっている。

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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