“J1新入生”徳島が迎えたホーム開幕戦 互いにエールを送るC大阪との関係とは!?

小田尚史

感謝を伝えた柿谷の静かな凱旋

柿谷をはじめ、多くの選手がC大阪から徳島に移籍を果たしており、友好的な関係を築いている 【写真:アフロ】

 この一戦は、もう一つ特別な意味を持って迎えられた試合でもあった。言うまでもなく、09年6月から2年半に渡って徳島に在籍していたC大阪のFW柿谷曜一朗の存在である。

 試合での再会を前に、「(柿谷の)顔を見られるだけでもうれしいし、ましてやピッチで対戦できるのはすごく幸せなこと」と津田は話していた。C大阪の会場入りや柿谷の選手紹介の際には徳島サポーターからも歓声が挙がり、彼のゲートフラッグを掲げた徳島ファンの姿も確認された。柿谷自身は、個人的な感情はチームにとってマイナスになるとばかりに、試合前は冷静に報道陣に対応。「特別な気持ちにはなるけど、優勝を目指す上で勝ち点3を取るだけ。優勝するための1試合という意味では、どこと対戦しても同じ」と“対徳島”に向けて多くを語ることはなかった。試合後も試合前と同様、報道陣に対しては多くを語らず、「勝つことだけを考えて試合に挑んだ。自分の中に(徳島への気持ちは)あるけど、(今ここで)人に言うことではない」と話すに留めた。ただ、当然、心の中には徳島への深い感謝の念がある。試合当日には、地元の徳島新聞の全面広告を使って“ありがとう 徳島”と題した感謝の意を示す粋な演出もした。

 試合後には徳島のゴール裏に出向くと、徳島サポーターの「曜一朗」コールに対して頭を下げ、これまでの応援に対するお礼の意を伝えた。これらの一連のやり取りは清々しさに溢れ、実に感動的な光景だった。プレー面では、期待されたような大きな見せ場を作ることはなく、ごくごく静かに凱旋試合を終えた印象だ。徳島は柿谷にシュートを打たせず、得点も許さなかった。対応したDF橋内優也も、「曜一朗(柿谷)本人にも聞いてみないと分からないけど、ボールタッチも少なかったし、自分たちがブロックを後ろに引く分、背後にスペースがなかったとは思っています」と話している。

友好的な関係を築く両チーム

 両チームの縁は柿谷だけではない。かつて、C大阪でコーチやユース統括責任者も務め、柿谷獲得にも尽力した中田仁司氏が徳島の強化部長に就いていることもあり、両クラブ間は現在も友好的な関係で結ばれている。試合開始前はC大阪サポーターから「J1ヴォルティス!」とのエールが送られ、試合後も、かつてC大阪に在籍していたGK松井謙弥、MF濱田武、MF青山隼、そして、現在C大阪から期限付き移籍している小暮に対してコールが飛んだ。

 もっとも、守勢に回る展開で相手の攻勢を受け続けた小暮にとっては、ほろ苦い一戦となった。同期のMF南野拓実のシュートをブロックするなど粘り強い守備を発揮する場面もあったが、基本的には攻撃に特長がある選手。チーム全体が押し込まれる展開では持ち味を出し切れない。

 とは言え、内容的に低調に終わった開幕戦に引き続き、今節も先発起用されたことを考えると、小林監督の期待の高さもうかがえる。失敗や痛みは若さの特権だ。この一年、日々の小林塾で一皮も二皮も剥け、大きく成長することが期待される。それは、チーム全体にも言えること。J1残留ならぬ、「J1定着」(小林監督)という目標に向け、“J1新入生”の戦いは始まったばかりだ。

<了>

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著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

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