びわ湖に見た川内優輝の実業団への影響 課題克服へ“チーム”での取り組みが鍵に

中尾義理

4位・川内には課題発見のレースに

はだしで芝生を歩くなど、疲労のとり方、調整法はナショナルチームから吸収したいという川内 【写真は共同】

 一方の川内は課題に気づかされたレースとなった。序盤から発汗が多く、2週間前に2時間10分14秒で優勝した熊本城マラソンの疲労も抜け切っていないと感じていた。気温10度を超えるコンディションにも苦手意識が働き、日本人トップを争う場面もなく終わった結果に、「今日は心が折れそうになりました」とうつむいた。

 4月に発足するマラソンのナショナルチームに参加するのは、市民ランナースタイルでやってきた川内には変化の一歩だ。練習方法や調整方法、医科学の活用など、世界と勝負するために必要な糧は吸収したいという。川内は実業団が取り入れている方法を聞き、この日のびわ湖でもフィニッシュ後に倒れこむのをこらえて、素足で芝生のフィールドを歩いたり、手のひらで口元を覆って呼吸を整えたりと、これまでに学んだ疲労を引きずらないケアを実践した。

 川内はかつて「駅伝中心でマラソンがおまけの選手には負けたくない」などと実業団に挑戦状をたたきつけるかのようにコメントしたこともあった。だが理想の強さを実現するため、特に五輪や世界選手権が行われる夏のレースで真価を発揮するためには、“チーム”での取り組みが欠かせないと視野を広げる。

アジア大会代表、松村当確 佐々木より川内が優勢

 アジア大会の男子マラソン代表は最大2人。佐々木と川内は選考レースを2度走っており、福岡国際では2時間9分5秒の川内が日本人トップで佐々木に勝ち、びわ湖では佐々木が川内に勝った。選考レースに複数回出場した場合について、日本陸上競技連盟の宗猛男子中長距離マラソン部長は、びわ湖のレース後の会見で、選考の対象は1回目のレースであると説明。それによれば、佐々木よりも川内の方が有利になる。

 東京で日本人トップかつ今シーズン日本人最高記録の松村は、アジア大会代表当確だろう。残るは川内と、東京で2時間8分51秒の日本人2位・小林光二(SUBARU)の比較だが、「日本人トップ」の優先度は高い。
 ロンドン五輪を目指した12年の2時間7分台1人、8分台4人、9分台4人ほどではないが、この13年−14年シーズンは8分台で2人、9分台は川内の2回を含む5人が走った。川内以外の6人が初のサブテン。16年リオデジャネイロ五輪、20年東京五輪に向けて、次は俺だ、という存在がこれからも現れるだろう。

 川内は「練習方法をいろいろ考えないといけない」、また「調整方法を見直さないといけない」とも言い、そして、アジア大会代表に選出されることを想定し、「結果を出さなければ意味がない。金メダルがダメなら日本代表(の選考レース)から退く」と言い切った。型破りに日本トップレベルを走り続けている男の模索と覚悟。実業団のノウハウと川内スタイルの接近がどのような相乗反応を起こすのか。ナショナルチームが走り出す14年は、日本のマラソンにとって画期的な機会となるだろう。

<了>

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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