びわ湖に見た川内優輝の実業団への影響 課題克服へ“チーム”での取り組みが鍵に

中尾義理

川内は疲労が抜けず、日本人2位。持ち前の粘りは健在も、早々に先頭争いから脱落した 【写真は共同】

 2日に行われた、アジア大会(9月開幕、韓国・仁川)男子マラソン日本代表最終選考レースのびわ湖毎日マラソン。6度目のマラソンで初のサブテン(2時間10分未満)をめざした佐々木悟(旭化成)が2時間9分47秒で日本人トップの2位、世界選手権2大会連続出場中の“最強公務員ランナー”川内優輝(埼玉県庁)は2時間10分38秒で日本人2番目の4位でフィニッシュした。中間点を1時間3分24秒で折り返したペースからすると後半のペースダウンが惜しまれるが、佐々木は優勝したバズ・ウォルク(エチオピア)と前回覇者で3位のビンセント・キプルト(ケニア)の、自己ベスト2時間5分台のアフリカ勢に割って入った。2時間7分台への執念を口にし続ける川内は、笑顔なき敗戦となった。

 びわ湖の1週間前、東京マラソンでは2時間8分9秒の松村康平(三菱重工長崎)をはじめ、2時間8分台が2人、9分台が3人と日本人選手が好記録をマーク。トラック種目のスピードでは目立たなくても、粘り強さで活路が開けることを示した。それはびわ湖の面々にどのような刺激となって受け止められたのか。レースを振り返ろう。

佐々木は初サブテン、川内は後半に粘り

 今大会、ペースメーカーは1キロ3分0秒ペースで30キロまで設定された。1キロごとに細かな上げ下げはあったが、20キロ通過は1時間0分4秒。しかし、その時点で川内の表情は「なんでこんなに早く苦しくなるんだろう」という困惑を隠せないほどゆがみ始めていた。
 23キロ手前で川内が先頭集団から離脱。2011年世界選手権マラソン代表の尾田賢典(トヨタ自動車)も25キロ手前から失速。東京では日本記録を上回る世界水準のペースに日本人が何人も食らいついて好記録を出したが、びわ湖ではペースメーカーが役割を終えた30キロ地点で先頭グループにいた日本人は自己ベスト2時間11分28秒の佐々木1人になってしまっていた。

 30キロ通過直後、ウォルクとキプルトがギアを変えた。佐々木は2歩、3歩と離れていくが、先頭の2人のペースが沈静し、33キロすぎに佐々木が追いついた。35キロの通過は1時間46分19秒。前回びわ湖で日本人トップの藤原正和(Honda)が2時間8分51秒をマークしたときのペースより35秒速いが、先頭の2人は30〜35キロに15分50秒もかかった。「ペースが落ちているのは明らか。ペースを上げるきっかけになればいい」と佐々木は前へ出ようと仕掛ける動きを見せた。38キロで優勝争いから脱落したが、競技場でキプルトを抜いて、2位を確保。念願のサブテンを達成し、「やっとマラソンを走り切れたなと思います」と喜んだ。

 一方、川内は“定番”の粘りの走り。25キロ通過は15位だったが、30キロで9位、35キロで7位、40キロで4位と浮上。2時間10分台でのゴールは面目を保つぎりぎりの結果だと言えるだろう。

佐々木を変えた異例の「1シーズン2レース」

1シーズン2レース走った佐々木。実業団選手にも川内のスタイルが影響を与えているようだ 【写真は共同】

 長距離マラソンの名門・旭化成の主将を務める佐々木。2時間10分の壁を越えるための変化が2つあった。「マラソンを1シーズンに2本走る」ことと「体の左右のバランスを整える」ことだ。

 13年春、佐々木は「次のマラソンシーズン(13年冬〜14年春)は福岡(国際マラソン、13年12月)とびわ湖を走る」とチーム関係者に宣言していた。日本代表選考の主要レースに複数回出場すると、あらかじめ決めてシーズンを迎える実業団トップランナーはほとんどいない。2レース走る理由を佐々木は「年(1シーズン)に1本だと教訓や経験を生かすのが1年後になってしまうから」と話す。この観点に立てば、川内のスタイルも参考になる。川内のようにほぼ毎週大会に出場するわけにはいかないが、直近のマラソンで得た課題を、同一シーズンの実戦で克服しようと努めることができる。

 今回はそれが生きた。佐々木は昨年12月の福岡国際マラソンで2時間13分12秒の9位。後半の失速は、右足にできやすい血まめが原因だった。左右のバランスを改善するフィットネスを取り入れたり、レースシューズを変えたりと対策を考えた。「走り方が変わったのかは分かりませんが、今回は血まめができなかったので、左右のバランスを見直したこともよかったのだと思います」と佐々木。国内のマラソンシーズン初めの福岡国際での失敗を、シーズン最後のびわ湖で返上した。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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