優勝者はFSで青の衣装を着ている!? 女子シングルにまつわる「青のジンクス」

長谷川仁美

フィギュア界では「五輪女子シングル優勝者はFSで青い衣装を着ている」というジンクスがある。ソチの優勝者は何色の衣装を着ているのか!? 【写真は共同】

 フィギュアスケート界では、「五輪女子シングル優勝者は、フリースケーティング(FS)で青い衣装を着ている」と、言われることがある。たしかに、2010年キム・ヨナ(韓国)、06年荒川静香、02年サラ・ヒューズ(米国)、1998年タラ・リピンスキー(米国)は、青い衣装を着てフリーを滑り、五輪金メダリストになっている。

 それでは、その前はどうだったのか。60年から10年までの14大会で、優勝した女子選手のフリーの衣装の色を確認した(56年以前の映像はモノクロのため、確認できず)。古い映像で退色していることも多いため、「赤系」など、系統の色を数えてみると……青系4、赤系4、ピンク系2、緑系2、色のミックス2という結果だった。

 それでも「五輪優勝の衣装は青」となんとなく思われていたのは、トリノ五輪で優勝した荒川静香のコーチだったニコライ・モロゾフ(ロシア)が「フリーは青だ。五輪優勝には青だ」と強くすすめ、荒川が青×水色のコスチュームを着用したエピソードがよく知られているからかもしれない。

ソチのフェンスは青で同化の恐れも……

 今回のソチ五輪、リンクサイドのフェンス(壁)の色と衣装との関係が気になる選手が何人かいた。今回のフェンスの色は、青系。いろいろな模様が入ったり、色に濃淡があったりする。たとえば、男子シングルで優勝した羽生結弦(ANA)は、ショートプログラム「パリの散歩道」で水色のシャツを着用していたが、この色が、フェンスに同化して見えることがあった。とはいえ、団体、個人と2回水色の衣装を着て滑った羽生は、いずれも1位、五輪金メダリストになった。衣装とフェンスの色は気になるけれど、圧倒的な演技は、そういうことを振り切ってしまう。

 ちなみに、女子選手が青い衣装で優勝した過去4回の五輪のフェンスの色は、「緑×青×白(10年バンクーバー)」、「赤×オレンジ系(06年トリノ)」、「白(02年ソルトレイクシティと98年長野)」だった。振り返ってみると、バンクーバーの会場でのキム・ヨナの青い衣装はさわやかだったし、トリノの鮮やかな色彩の中で、荒川の青衣装は気品を感じさせた。その前はどの五輪でも、基本的にフェンスは白地に「SALT LAKE 2002」などといった文字が書かれているだけのシンプルなもので、衣装との関係はあまり感じさせなかった。

 少し話は変わるが、フィギュアスケート界には、誰が言い出したのか分からないが、言い伝えとかジンクスのようなものがある。例えば、以前言われていたのは、男子シングルでは「五輪前年の世界選手権の金メダリストは、五輪で優勝できない」、女子シングルでは「五輪前年の世界選手権の表彰台に乗った3人のだれかが、五輪で優勝する」というものだった。どちらも数十年にわたって、まことしやかにささやかれてきたのだが、男子のほうは、バンクーバー五輪でのエヴァン・ライサチェク(米国)によって破られているし、女子のほうもトリノ五輪で、荒川静香が破った。こういうものは、いつかは破られる。
 とはいえ、世界選手権では12度優勝しているカナダ男子選手たちが、五輪では一度も優勝していない「カナダの呪い」と呼ばれるジンクスのように、ソチ五輪でも破られずに平昌(ピョンチャン)五輪まで持ち越されたものもある。

浅田は青、キム・ヨナは黒×えんじ

 さて、今、気になるのは、ソチ五輪での女子シングルの選手たちの衣装の色だ。五輪に合わせて衣装を新調し、フリー当日に初めて披露することもあるし、とくに過去に滑ったフリーをもう一度使うカロリーナ・コストナー(イタリア)やアシュリー・ワグナー(米国)は、新しい衣装にしてくる可能性もある。そのため正確ではないのだが、ソチ五輪の前までの衣装で確認すると、今シーズンのトップ選手たちのうち……青系の衣装は、浅田真央、村上佳菜子(ともに中京大)、グレイシー・ゴールド(米国)の3人だ。ユリア・リプニツカヤ(ロシア)は赤。ワグナーは黄色。鈴木明子(邦和スポーツランド)は白、アデリナ・ソトニコワ(ロシア)はグレー系。キム・ヨナは黒×えんじと、それぞれ別々の色を着ている。

 ソチ五輪の女子シングル、いったいどんな結果になるのだろう。

 衣装の色はあくまでも衣装の色だということを、もちろん皆知っている。青い衣装を着ていたからといって、突然ジャンプが楽に跳べるようになるわけでもないし、ジャッジの採点が有利になるわけでもない。ただ、4年に1度しかない五輪は、私たちが想像する以上に、選手たちにとって重大な大会であり、そこにはすべてを尽くして臨みたいと考えている。

 想像してみてほしい。今大会の男子シングルでは、これまで3年連続世界選手権で優勝、つまり3年間ずっと世界チャンピオンだったパトリック・チャン(カナダ)が、銀メダリストになった。この3年ほどの間ずっと、彼はソチ五輪の圧倒的な優勝候補であったし、多分それはチャン本人も感じていたことだろう。実績を積んで、万全を尽くして臨んだソチ五輪だった。もし彼が五輪の金メダルを望むなら、少なくともあと4年の厳しいトレーニング、年齢やけがとの戦いなどを経なければならない。そして、4年後に金メダルが待っているという保証もない。五輪での演技とは、金メダルを目指してきた選手たちにとって、それほどまでの重さを持つものなのだ。

 やることもすべてやりきったところで、すべてを万全にして「その時」に向かいたい。五輪優勝を見つめる女子選手たちが青い衣装を着るのは、そうした思いの表れなのかもしれない。

<了>
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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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