マンチェスター・シティーは世界最強? リーグを盛り上げたいアジテーターの思惑

東本貢司

“仕掛け”のにおいがする“世界最強”説

3日に行われたチェルシー戦を前に、突如出てきたシティーの“世界最強”説。そこにはメディアのさまざまな意図が感じられる 【Getty Images】

 3日のホーム・チェルシー戦を前に、現地専門メディアが突如として持ち出してきた「マンチェスター・シティー“世界最強”説」――個人的にその印象には、なんらかの問題提起、もしくは“仕掛けキャンペーン”のにおいがした。これって、言い換えれば「プレッシャー・メッセージ」なのではないだろうか、と。

 一つは、このゲームの数日後に迎えるチャンピオンズリーグ(CL)・バルセロナ戦に向けて。どうやらそろそろ下り勾配に差しかかっていると見られるカタランの巨人(くしくもシティー対チェルシー戦の前日、バルセロナはヴァレンシアに敗れてリーグ首位の座を奪われた)を「一蹴」する予感、いや「そうしてこそ」、シティーは真に世界最強への道へとまい進するだろう――という期待とアジテーション(扇動)、ある意味でのプレッシャー。

 そしてもう一つは、無論、敵将ジョゼ・モウリーニョに向けて。“進撃の巨人”シティーを止められるのはもはや貴殿のチームしか考えられない。さて、貴殿はいかなる“スペシャル”な知恵を絞ってこの命題に当たり、答えを出すのだ?

あまりにも桁外れな得点力

 アーセナルファンなら髪の毛を逆立てて抗議するところかもしれないが、今、現地識者のほぼ共通する見解は「シティーとチェルシーの一騎打ち」にまとまりつつある。その最たる根拠は、「アーセナルが残り15試合前後で強豪との対戦をライバル2強よりも多く残している」というものだ。そこに、ラムジー、ウォルコットの故障リタイア、ジルー独りの得点源、即戦力として狙いを絞ったジュリアン・ドラクスラー(シャルケ)獲りの失敗、その代役にあてがおうとしたキム・カールストレム(スパルタク・モスクワ)に背中の故障が発覚(アブ・ダビでのビーチサッカーで被ったという情けないてん末)などが重なって、最後には「息切れする」との予想が大勢を占めているのである。

 異論はともかく、なぜかと言えば、あまりにも桁外れな今シーズンのシティーの得点力があるからだ。リーグ23試合で68得点、他トーナメントを加えると優に100を超えて記録の大幅な更新へ突っ走っている。アグエロが故障で外れてもジェコがしっかり穴を埋める。新加入のネグレドは「アラン・シアラーの再生」という声が上がるほどの鋭い嗅覚を発揮して絶好調。それ以上に、「史上最高のホールディングプレーヤー」ヤヤ・トゥーレがチーム2位のゴール数(12ゴール)を荒稼ぎする一方、現チーム中、安定感と創造性で最も頼りになるダヴィド・シルヴァが衰え知らずで健在……。この圧倒的な攻撃力一つをとっても「最強」の名にふさわしいという評価には、確かに誰もあらがえそうにない。

メディアの“意図”を感じるチェルシーとの一騎打ち

 ゆえに、アーセナルは善戦マン止まり、復活気配のリヴァプールもまだまだ、そして盟主マンチェスター・ユナイテッドに凋落の影がぬぐえない今――貴殿のチェルシーがここでお灸を据えてやらないと(せめて、その切っ先を見せないと)、シティーはお山の大将へまっしぐら、ただしそのせいでバルサに後れを取ってしまいかねないぞ、とまあ、そんなどこか“やっつけ”風の、メディアの“意図”を感じてしまったのだ(メディアの即興的志向、何か「分かりやすい問題提起」はないかと模索する体質は、ご承知の通り)。

 個人的には気の早い話だと思う。第一、後衛に関しては少しずつ若返りを図っているとはいえ、シティーの主力は年齢的に今がピーク(もしくは“過ぎ”)、仮に“世界最強”の“予言”が当たっているとしても、その寿命は長くない。それに、バイエルンやバルサと違って、シティーには「実戦的な意味」でのライバルが常にざっと5、6チーム控えている。一試合たりとも気の抜けない、という状況は疲労を倍、3倍にもするだろう。

 実は筆者、アーセン・ヴェンゲルがフアン・マタのユナイテッド移籍を批判したココロのどこかには、強敵シティーとチェルシーに対する心理的プレッシャーの意味が潜んでいたに違いないと考えている。ご存じサー・アレックス(ファーガソン)のマインドゲームほどにとげは鋭からず、少々高尚すぎて(?)伝わりづらいかもしれないとしても。

 余談はさておき、目下の(メディア側の)空気は「シティーとチェルシーの一騎打ち」でしばらくアジっておいて、どちらか、もしくはどちらもがコケる気配を見せたら、それでまた記事の書き甲斐が生まれてくる、といった辺りではなかろうか。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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