マンチェスター・シティーは世界最強? リーグを盛り上げたいアジテーターの思惑

東本貢司

期待に応えた「スペシャル・ワン」

試合はチェルシーが勝利。モウリーニョの秘策でシティーの“世界最強”に待ったをかけた 【Getty Images】

 さて「結果」は――。

 アジテーターの狙い通り、モウリーニョはかつてない“精密さ”を期して準備に余念なく、それがまんまと当たってシティーに「今季初のホーム敗戦」というお灸を据えた。いや、お灸どころではなかった。あえて言えば「世界最強のイメージ」にきっちり待ったをかけてみせたと言っても過言ではないと思うのだが、いかがだろうか。

 0−1のスコアは一種のトリックだ。実質的には「0−3」に近い。かといって、さすがに「ねじ伏せられた完敗」とまでは言えないだろうって?

 そうだろうか。例えば、シティーの誰かがペトル・ツェフに“一世一代”級のセーヴを強いたシーンがあったか? 例えば、ヤヤの飛び込みはほんの一瞬のズレで実らなかっただけ、だから惜しかった……? そんな“のんき”な解説で済ませていいのだろうか。

 筆者の印象、感想は違う。テリーとケイヒルに、イヴァノヴィッチと中盤アンカー役に入ったダヴィド・ルイスが、ほぼ完ぺきにシティーのアタック、そのエッジを見切った連携ショウを演じ、常にアザールとウィリアンを軸とする高速カウンターの切っ先を相手に突きつけて心理的に揺さぶっていた――そんな風に見た。

 そして、それこそがモウリーニョの描いたシティー封じの要諦(ようてい)――アジテーターたちの声なき声に答え、いや、意地でもその上を行く、まさに「スペシャル・ワン」ならばこその秘策。もちろん、ピッチ上の“彼ら”もそれによく応えたものではあったが。

 ただ、そうはいっても勝負は紙一重だったには違いない。我慢比べという意味では、双方に同量の負荷がのしかかっていたはず。よって、シティー「世界最強への道」はしばらくの間、まだ目はあろう。ただ、このゲームは他のライバル(直近ではバルセロナ)にも大いに勉強になったかもしれない(もし、モウリーニョにそう言ってあげたら、さぞ得意げにニヤリとして、それから「君、こんなもんじゃないよ」と宣うに違いない?)。

のしかかるとてつもない「プレッシャー」

 シティーにとって、今後の課題は日程、ほぼその一点に尽きるだろう。CLの他、リーグカップ決勝が控え、今月中旬に再会されるFAカップにも左右される。相手次第だが、当然FAカップではメンバーを少々落とすことになるだろうし、そうなれば余計なリプレー(再試合)という事態もないとは言えない。

 そこで、アジテーターたちの最後の、ある意味では「真の」思惑(もちろん、これからシーズン末までの記事を書きやすくしてもらうための)が炙り出されてこないか?

「世界最強」の名にかけて、バルセロナを撃破すべし。そして、ひたすらヨーロッパ最強の栄冠に向けてひた走れ。母国の、世界“最強”のプレミアの誇りを再び示せ。今の君たちならそれができる!(矛盾するようだが、一つ誤算があったとすれば、チェルシーに敗れたことかもしれない。勝っていれば「チェルシーにできたことならば」という前置き文句が可能だったのに……)

 その結果、どうなるか。言うまでもない。過密日程と想像を絶する疲労とプレッシャーの三重苦(ここでは、絶好の殺し文句がある。「宿敵ユナイテッドを完全に超えて」)。その先にあるものは「リーグ戦の混迷が白熱の度を増す」(かもしれない)、メディアと大方のファン(特に、アーセナル、リヴァプール、あるいはエヴァートン、スパーズにユナイテッドまで含めたファン)にとっては願ってもない展開!

 待てよ、もしや……この“アジテーション”の裏には、ロジャーズ、マルティネス、シャーウッドは外してもいいが、ヴェンゲル、そして誰よりもサー・アレックスの、ぼんやりとした輪郭だけの姿が浮かんではこないか?

 えーと、3日のゲームでホームのピッチに立ったイングランド人はというと……確か、ハートただ一人だった……。「世界最強に限りなく近い」マンチェスター・シティーには、今、何重にも入り組んだ、とてつもない「プレッシャー」がのしかかっている!?

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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