マラソンランナー・今井の成長と課題 リオ五輪出場の目標に向けて

寺田辰朗

自ら仕掛け、粘りの走りで2位

別大マラソンで成長の証しを見せた今井 【写真は共同】

 2日に行われた別府大分毎日マラソンは、2013年モスクワ世界陸上代表だった前田和浩(九電工)ら、サブテン(2時間10分未満)の記録を持つ日本人選手が4人参加した。そんな中、優勝こそ逃したものの、今井正人(トヨタ自動車九州)が2時間09分30秒で日本人トップの2位に入った。順天堂大時代に箱根駅伝5区で大活躍し“山の神”と称えられた選手が、マラソン8回目で初のサブテンを達成した。これまでは相手のスパートに対応できず、ずるずる後退するシーンが目立っていた。それが今回は30キロ過ぎに自らスパートするなど、レース展開にも成長が見て取れた。

 今井の今大会の走り、マラソンへの取り組み、そして将来の目標について、本人のコメントを中心に探りたい。

「30キロ過ぎのスパートを狙っていたわけではありません。どういう選手が残るのか、人数を絞る狙いもありましたが、ペースメーカーが外れてけん制し合ったら、それまでの流れが台無しになります。それに自分のこれまでのマラソンは、誰かに仕掛けられるとついていくことができず、不完全燃焼に終わるものばかりでした。自分でレースを動かしたいと、ずっと思っていたんです。これまで30キロ地点では『まだ12キロもあるのか』と感じることが多かったのですが、今日は『30キロでこのくらいか』と、身体的にも精神的にも余裕がありました」

 優勝したアブラハム・キプリモ(ウガンダ)が、35キロ手前で一気にスパート。最大で100メートル(約15秒)まで広げられることもあったが、今井は差を詰めたり広げられたりを繰り返しながら、最後は7秒差まで迫った。今井の成長と、現時点の課題が明確になったレースだった。

「キプリモ選手のスパートには正直、ついていくことができませんでした。ただ、そこで“やばい”と思うレースではなかった。あと8キロあったらチャンスはある、自分の中で“まだまだ”と言い聞かせることができました。40キロ付近ではトラックで絶対に逆転してやるという思い、逆転できるというイメージで走っていました。しかし実際には、最後は上体がぶれぶれになってしまい、新たな課題が出てきてしまいました。1位の選手を追い込みながら抜けなかったことは、すごく悔しいですね」

手応えを得たニューヨークマラソン

 終盤の失速を繰り返していた今井が、自身の変化を感じたのは昨年2月の東京マラソン(11位・2時間10分29秒)で、「きつくなってからも動きを変えられた」という。さらに手応えを感じられたのが、昨年11月のニューヨークシティ・マラソンだった。ペースメーカーのいないレースで2時間10分45秒。世界のトップクラスが集まった中で6位と健闘し、川内優輝(埼玉県庁)にも先着した。

「ニューヨークはワールド・マラソン・メジャーズということと、アップダウンのあるハードなコースという点を踏まえ、そういったところでも勝負をしたいと思って臨みました。ペースメーカーがいないので、1キロ、2キロの中でもレースに動きが出ます。中間点過ぎのペースアップに対応できませんでしたが、そこから5キロはスパートで離された差のまま粘ることができた。それ以前はやっとゴールした、というマラソンでしたが、ニューヨークは離された後に作り直して、最後まで走りきることができたんです。

(競技以外でも)日本では当たり前のことが、海外では当たり前ではないということも分かりました。文化の差でもあるし、日本の運営が整っていることの証しでもあるのですが、それらを経験してまた一歩、タフさを身につけられたと感じました」

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著者プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。地道な資料整理など、泥臭い仕事がバックボーンだという。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。敬愛する人物は三谷幸喜。

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