マラソンランナー・今井の成長と課題 リオ五輪出場の目標に向けて

寺田辰朗

変わらない目標「オリンピックで戦いたい」

今井は昨年のニューヨークマラソンで、手応えをつかんだという 【Getty Images】

 ニューヨーク後の3カ月間の練習は、きつくなってから押していくところや、ペースアップに対応できるような切り換え能力を、トレーニングの中で意識して行ってきた。

「ニューヨークはわがままを言って遠征した試合。そこでつかんだ良いイメージを、早く次のレースでフィードバックさせたかったので、半月か1カ月後に別大(別府大分毎日マラソン)で勝負すると決めました。今日はペースメーカーがいるレースでしたが、いるのなら利用しよう、と思って走っていましたね。15分10秒でペースが速くなったとか、15分30秒で遅くなったとか、そこをストレスに感じることなく、流れの中で走ることができた。

 ニューヨークで得られたものを一歩進めて、それ以上ができたのは自分としては前進です。2時間09分30秒は“やっと出たか”という感想ですが、自分の中ではもっと行きたかった。もっと上で勝負していくためにも、タイムも大きく伸ばしたかった。今回30キロでレースを自分で動かすことができましたが、あそこから最後まで押していけるためのトレーニングと精神力が必要です」

“山の神”という世間の評価に甘んじることなく、マラソンで世界と戦うことを目指した今井。そのために1992年バルセロナ五輪・銀メダリストの森下広一監督が指導するトヨタ自動車九州に入った。それから7年、過去7回のマラソンでは、日本代表には届かなかった。レース内容的に大きく失速したこともあったが、目標が揺らぐことはなかったのだろうか。

「オリンピックで戦いたい、という目標は入社してからずっと変わりませんでした。当初は力がないのに気持ちだけが先行して、理想と現状がかみ合わなかったんです。練習も“やらねばならぬ”的なものがあって、視野の狭いトレーニングになっていました。最近になって、良い意味で現状を見つめられるようになったと思います。自分と対話をすることを大事にして、現状でどれだけできるかを日頃から考えるようになりました。

 自分の性格も30年生きてきて、やっとつかめてきた感じがします。陸上競技と私生活のメリハリをうまくつけられるようになりました。気持ちと体がかみ合うようになった結果、一歩一歩目標に向けて上がっていけるようになっている。ここ3、4年は大きなケガもなくトレーニングが続けられて、これを継続していったら自分の目標に近づけると思っています」

 駅伝の20キロ区間のスピードは日本で一、二を争う選手だけに、マラソンでの2時間7分台、6分台も期待できるが、森下・今井師弟は記録よりも勝負重視。次のマラソンは決まっていないが、来季は15年北京世界陸上の選考会に出場する。その先には16年リオ五輪も待っている。これまで苦しんだ選考レースで、“山の神”から“マラソンの今井”に成長した姿を日本中にアピールするだろう。

<了>

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著者プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。地道な資料整理など、泥臭い仕事がバックボーンだという。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。敬愛する人物は三谷幸喜。

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