卓球のスーパーキッズが続々誕生する理由=福原、石川らも通った成功への道

小川勝

10歳の少女が大学生に勝つ快挙

日本卓球界の“スーパーキッズ”である伊藤(左)と平野美。今年の全日本選手権でも活躍が期待される 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 卓球の全日本選手権が14日、東京体育館で開幕する。今年は東京で世界選手権団体戦(4月28日〜5月5日)も行われるため、全日本選手権の男女シングルス優勝者は、そのまま世界選手権の代表にも決定する。

 全日本選手権では、2011年の大会で当時10歳だった伊藤美誠(スターツSC)、平野美宇(JOCエリートアカデミー)の2人が、ともに大学生に勝つなど、一般の部における最年少勝利を記録して、社会的なニュースになった。今年はこの2人が、中学1年生になって、いよいよ本格的に大人の世界で上位を狙うことになる。

 かつて福原愛(ANA)は、14歳で世界選手権ベスト8。石川佳純(全農)は13歳で全日本選手権ベスト4に進出して、世界選手権の日本代表に選出されている。
 なぜ、卓球界では、これほど次から次へと、いわゆる「スーパーキッズ」が誕生するのか。全日本選手権を前に、この点について書いてみたい。

小学生と大学生、使う用具はほぼ同じ

 小学生や中学生が、大学生に勝つ。こうした、ほかの球技ではめったにありえない番狂わせが卓球で起こる理由は、まず、この競技の特性にある。卓球台の高さは76センチ。ボールもラケットも軽いため、小学生でも高学年になれば、大人とほぼ対等に打ち合うことができる。これが例えば、テニスではそうはいかない。小学生が振り回すには、大人のラケットは重すぎるからだ。卓球は、小学生でも大学生でも、使う用具がそれほど違わない、ほとんど唯一の球技と言っていいだろう。

 もう一つ重要なのは、卓球台の大きさが、乗用車のガレージにちょうど収まる程度のサイズであるため、一般的な家庭にも置くことが可能だという点だ。正規の卓球台でも、10万円から15万円くらい。つまり、比較的少ない予算で、家庭の中に正式な試合ができるコートを持つことができ、なおかつ、試合と同じ環境で練習することができる。これも、ほかの球技では、(少なくとも国土の狭い日本において)一般的な家庭で実現できない環境だろう。

“3人娘”も自宅で卓球練習を始めた

 自宅の練習環境が整うことの意味は何か。親が競技の経験者で、自宅に卓球台を置くスペースさえあれば、子どもは基本技術を身に付けるにふさわしい小学生の時期に、十分な練習時間を確保できる。ほかのスポーツなら、どうしても自宅を出て、練習施設まで往復する必要があるし、試合をするとなると、それだけの人数がそろっていなければできない。学校から帰ったらすぐに練習して、試合をして、シャワーを浴びたら10分後には居間で夕食というわけにはいかない。だが卓球では、それが可能なのである。

 言い換えるなら、通常であれば、競技団体が行政と協力して作り上げるジュニア世代の育成環境を、各家庭で独自に作り上げることが可能なのである。実際、日本のトップ選手は、ほとんどがそのような環境で育っている。12年ロンドン五輪で銀メダルを獲得した女子団体のメンバー、福原、石川、そして平野早矢香(ミキハウス)の3人は、いずれも親が卓球の経験者で、自宅に卓球台があり、親を練習相手に卓球を始めた選手たちだ。

 こうした競技の特性以外に、優れた小学生選手、中学生選手が次々に出ている理由として考えられるのは、やはり少女時代から注目を集めてきた福原の存在だ。小学生の競技人口は、福原が小学生だった1990年代には1万1000人前後だったが、彼女が初めて日本代表入りして世界選手権ベスト8の活躍を見せた2003年以降は、1万3000人を超える状況が続いた。福原はその後、15歳でアテネ五輪ベスト16に進出するなど、長く日本卓球界の顔として活躍している。小学生の競技人口の増加に、福原の存在が影響していることは、間違いないと思われる。少子化の傾向を考えれば、この増加はかなり意味のあるものだろう。

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著者プロフィール

1959年、東京生まれ。青山学院大学理工学部卒。82年、スポーツニッポン新聞社に入社。アマ野球、プロ野球、北米4大スポーツ、長野五輪などを担当。01年5月に独立してスポーツライターに。著書に「幻の東京カッブス」(毎日新聞社)、「イチローは『天才』ではない」(角川書店)、「10秒の壁」(集英社)など。

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