桜花学園の強さを生み出す『体の重さ』=「代表養成チーム」の世界を意識した育成

青木美帆

満身創痍ながら三冠を達成

決勝で岐阜女子を破り、2年連続19度目のウインターカップ制覇を決めた桜花学園 【写真は共同】

 高校女子バスケ界きっての名門・桜花学園(愛知)が岐阜女子(岐阜)に79−69で勝利し、2年連続19度目の全国高校選抜(ウインターカップ)優勝を果たした。

 夏の高校総体、主力メンバーを派遣した秋の国体を制して迎えた今大会も優勝候補の最右翼とみられていたが、大会直前に主将の山田愛が、大会中に酒井彩等と井澗絢音が捻挫。各選手のプレータイムを制限しながら戦わざるを得ず、思わぬ苦戦を強いられた。

 準決勝の聖カタリナ女子(愛媛)戦も大量リードを奪いながら後半に猛反撃をくらい、聖カタリナ女子のラストシュートが入ればあわや延長戦という辛勝だった。「準決勝は攻め気をなくして足を止めてしまう時間帯があった。決勝はどれだけリードしていてもリングに向かう姿勢を崩さないようにしよう」(馬瓜エブリン)と皆で気持ちを統一し、岐阜女子が終盤仕掛けたオールコートディフェンスにも強気で立ち向かった。

 決勝では180センチの馬瓜が187センチのロー・ヤシンをよく守った。酒井や井澗、西山詩乃も小気味いいシュートを決め、前十字靭帯断裂の大けがから復帰した山田はチームハイの22得点。今大会最長の35分間出場で疲労が足に来ていたが勝負所で踏ん張り、タイムアップの瞬間は笑顔と涙がごちゃ混ぜになった顔を両手で覆った。

「ちょっと不本意な内容でしたけど、けが人が多かったから仕方がなかったですね。準決勝、決勝も『負けなければいい』という感じでした」と井上眞一コーチ。それでも『打倒桜花』を目指し死にもの狂いでぶつかってきた対戦チームをことごとく跳ねのけた地力は、さすがの『女王』としか言いようがない。

食育から作る体の強さ

桜花の強さは選手たちの能力、井上コーチの指導力、そして体の強さに秘訣がある 【写真は共同】

 勝てた要因はいくつもある。真っ先に目につくのは、全国選りすぐりの選手たちの能力やキャリアと、チームをインターハイとウインターカップを合わせて38度の優勝に導いている井上コーチの指導力だが、もう一つ桜花学園が他のチームより圧倒的に優れているものがある。それは体の強さだ。

 桜花学園に完敗したあるチームのコーチは、敗戦後にこう話した。「桜花さんは、われわれが練習試合で対戦した大学生よりも体が強かった。まるで冷蔵庫にぶつかっているようでした。体重もうちの選手より10キロくらい重いのではないでしょうか」。

 事実、桜花学園のエントリーメンバーの平均体重は64.3キロと出場チーム中最も重い。平均身長もトップだが、次点の大阪薫英女学院(大阪)と8ミリ差にも関わらず体重に4.1キロもの開きがある。桜花学園に吹っ飛ばされるチームは多かったが、逆に桜花学園の選手がコンタクトに苦戦している様子は一度も見られなかった。酒井は「他のチームって、みんな細いですもんね。国内で当たり負けをしたことは“さすがに”ないです」と、あっけらかんと話す。

 この体の強さの源について、井上コーチに尋ねてみた。

「食事とウエイトトレーニングから体を作っています。体重がないと戦えない、下手くそでもいいからとにかくパワーを付けるというのが私の考えです。食事はとにかく量をとらせます。お菓子や甘い飲み物で食欲をなくす選手がいるので、それをストップさせて米でおなかをふくらませる。来春入学予定の中学生が何人か練習に来ていますけど、選手たちと同じ量を食べるのに倍以上時間がかかっています」

躍進を見せる日本女子バスケ界の起点に

センターの馬瓜(右)は体重が増えない体質ながら、しっかりとした食生活で体を作っている 【写真は共同】

 センターの馬瓜はなかなか体重が増えないため、毎食必ず2杯以上の白米をとるようにしているという。けがにより1年半の間コートから離れていた山田は、その間に約5キロ体重が増えてしまったと笑う。加えてウエイトトレーニングや、コンタクトプレーだけの分解練習などを積み重ねることで、選手たちは国内無敵の体を手に入れた。

 桜花学園の取り組みは大神雄子(中国WCBA・山西フレーム)や渡嘉敷来夢(JX−ENEOS)を輩出し、エントリーメンバー15人のうち11人がアンダーカテゴリー日本代表を経験している「日本代表養成チーム」としての責務の一端でもある。「国内の戦いだけを考えているわけではありません。うちは代表に行く選手が何人もいるから、世界のことを考えての強化です」(井上コーチ)。

 桜花学園が高校界を上へ上へと引っ張り、それにつられるようにライバルチームの意識も変わっていく。43年ぶりのアジア制覇、U−16、U−18日本代表の世界選手権常連化。ここ数年目覚ましい躍進を遂げている女子バスケットボール界の起点は、やはりこのチームにあると実感させられる優勝だった。

<了>
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著者プロフィール

早稲田大学第二文学部卒。大学時代より国内バスケットの取材活動を開始。中高生向けバスケット雑誌の編集部を経て、現在はフリーのエディター&ライターとして活動中。

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