早大競走部を強くした“食”の秘訣とは!?=箱根ランナーを支える栄養管理士に聞く
早稲田大競走部の食事をサポートする栄養管理士の福本氏に、ランナーを強くする食事の秘訣などを聞いた 【CSPark】
同部を変えた食事の秘訣や箱根駅伝での食事サポート、食堂での選手の様子などについて、2代目管理栄養士として06年からサポートを行っている福本健一氏に聞いた。
食材、調理法――大切なのはバランス
箱根駅伝にエントリーした3年の田口(写真)は「栄養バランスが考えられていて体調管理に不安がないし、何よりおいしい」と食事をほおばる 【CSPark】
火曜日から土曜日の週5日、朝夜2食分の食事提供が主な仕事です。現在、2人体制で競走部用のメニュー考案、食材発注、調理までを住み込みで一貫して行っています。
――メニュー作りはどのように行っていますか?
一般向けには厚生労働省から出されている食事摂取基準がありますが、アスリートとなると全く別で考えなければいけません。また、競技によっても違うので、陸上ランナーに必要な指標に基づいて作っています。具体的には、体重管理が必要な種目なので、脂質などをケアしながら、ビタミンB1、B2が1.5〜2ミリグラム、カルシウムが800ミリグラム、鉄分が10ミリグラムを1日の摂取目標としています。サプリメントは勧めていないので、なるべく2食分の食事の中で摂れるように調整をしています。長距離ブロックと短距離ブロック共通のものを、一週間スパンで作成していて、監督からも全て任せていただいています。
――調理方法で気をつけていることはありますか?
揚げものに関しては、1、2週間に1回程度にしています。体を大きくすることを求められる競技ではないので、揚げものは必要ありません。また、炭水化物はパスタなどの摂りやすいメニューにしたり、たまに味付けご飯を出したり、試合前には梅干しやふりかけなどのご飯のお共を付けたりしています。夏場は特に、スパイシーな味付けやゆでた豚、鶏などを入れた麺類でなるべくスルスルっと食べられるように工夫をしていますね。油を使う炒めものも含めて、献立のバランスを考えて調理法が重複しないように気をつけています。
――よく食材使う食材は何ですか?
栄養の密度が高い緑黄色野菜は必ず使用しています。また、週4日は魚も必ず提供しています。鮭や青背の魚、銀ダラなどは使用頻度が高いです。特に銀ダラは、魚の中ではビタミンAがかなり高い食材なので、免疫力を高めるのに効果的です。お肉は豚、鶏、牛をまんべんなく、アスリートに大切なレバーや赤身を使用しています。大豆も使いますし、基本的はバランスよく使いますね。果物も朝と夜で必ず出していて、リンゴやグレープフルーツ、オレンジ、キウイ、バナナをベースに、季節によってはスイカやメロン、ブドウなども出しています。
「走るとゲップが……」選手ならではの要望も
この日の夕飯はご飯、すまし汁、チャプチェ風炒めものなど。うなぎの蒲焼は差し入れとのこと 【CSPark】
「やはり男子寮だな」と思いますが、トップ5は、ひじきハンバーグ、鶏の唐揚げ、肉豆腐、豚キムチ、サバの煮込みです。いろいろなバリエーションがあるべきだと思っているのですが、人気メニューは1カ月に1回は出しています。
――アスリートでなくとも、出されたらうれしいメニューばかりですね。
基本的に食事には満足してもらっているようです。ただ、選手からは「走るとゲップから生臭さが出てくるから、午後にきつい練習がある日は、朝食に青背の魚を出さないでほしい」といった要望が出てくることもありました。選手にしか分からない意見は、教えてもらいながら対応をしています。
――食事を提供する上で気をつけていることはありますか?
「食事もトレーニング」とおっしゃる方もいますが、私はリフレッシュができる時間だと思っているので、職域としては栄養士ですが、食事の楽しみや人間の本能的な欲求が満たされるような心理的な部分に、どちらかというとウエートを置いています。盛り付けでも、少しでもテンションが上がるように、また食欲が湧くようにと心掛けています。
――箱根駅伝では何か特別な対応を取っていますか?
1月1日から3日は、現地で1区から3区、9区、10区の出場選手の個別対応をしています。区間エントリー発表後から選手に食事の要望を聞き、リクエストがあれば対応し、なければこちらから提案して決めていきます。私から提案するのは毎回、他の肉に比べて脂肪分が分解しやすく、ご飯がすすみやすい味付けの「鶏の照り焼き」です。箱根駅伝だからといって特別な食事を出すのではなく、本当に食べ慣れたメニューを出しています。ただ、お腹が張らないように食物繊維を少なくしたり、試合前日や当日に摂るべき栄養素といらないものをおさえた食事にはしていますね。また、試合当日の朝は冷え込みますので、ホットジンジャーを出したりしています。
――箱根駅伝では、緊張などでご飯が食べられない選手もいると聞きます。
今まで見ていた選手では、自分で量を調整しているという感じで、ごはんが進まなかったり、緊張でのどが通らないという選手はいませんでした。当日は、あまり「頑張って」とは声を掛けず、「テレビで見ているから映ってきな」とか「前で走ったら映る時間が多くなるからな」と声をかけて送り出します。