箱根史上最強のライバルが共に目指すもの=早大・渡辺監督×桜美林大・真也加監督

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大学時代、箱根駅伝などで熱戦を繰り広げた早稲田大・渡辺監督(左)と桜美林大・真也加監督が再会。監督としての思いや苦悩などを語った 【CSPark】

 大学時代、「日本人に敵なし」と言わしめた早稲田大のスーパーエースで、現在は同競走部駅伝監督を務める渡辺康幸氏。そして、そんな天才ランナーの唯一のライバルとして立ちふさがった山梨学院大のケニア人留学生、真也加ステファン氏(旧名=ステファン・マヤカ)。これまでの日本学生陸上界でも例を見ないライバル関係を築き、箱根駅伝などで数々の熱戦を繰り広げてきた。

 そんな両雄が、今年4月の真也加氏の桜美林大陸上競技部駅伝監督就任で、再び監督という立場で相まみえることとなった。今でも良きライバルとして、そして陸上界を支える仲間として交流を続けるふたりに、“監督”という仕事に懸ける思いや苦悩、今後の陸上界について語ってもらった。

渡辺監督「常に勝ち続けないと評価されない」

「1年1年が勝負で、結果を出さないとダメ」と、監督業の厳しさを語る渡辺監督 【CSPark】

――まず、真也加監督にお伺いします。桜美林大から監督就任の話が来た時の率直なお気持ちはいかがでしたか?

真也加 選手がいないゼロからのスタートだったので、正直とても不安で、やるかやらないかすごく迷いました。

渡辺 そんな中で駅伝監督に真也加君が就任するということは、今後の留学生の進路を考えても、非常に意義があることだと思います。今回、桜美林大の幹部層や関係者がそのあたりを理解し、駅伝強化に向けて動いてくれているのは素晴らしい環境ですよね。

真也加 やはりここで自分が結果を出すことは大切だと思っています。ただ、高校生のスカウティングに行っても、先輩もいない、実績もないチームにすんなり入ってくれる選手がなかなかいない状態で、この一年、チーム作りはとても大変でした。早いうちから声を掛けて、夏合宿や練習に参加してもらって、初めて検討してもらうという形です。その上、いくら実力のある選手がいても、勉強ができなくて(推薦枠で)入れない選手もいるので、勉強をしっかりできた上で、うちに興味を持ってくれる選手を探さなければいけないんです。

渡辺 ゼロからのスタートは本当に大変だと思います。真也加君は週末、各地を飛び回っていますから。全国の都道府県で行かない場所はないんじゃないかな(笑)。早稲田大は箱根の伝統校なので、スカウティングに関しては助けられている部分もありますが、真也加君のところはそういうわけにいかないですから。8カ年計画で箱根入賞を目指すとのことですが、本当に簡単にできないんですよ。どこまで大学側が待てるか、バックアップしてくれている人たちが待てるかが鍵だと思います。われわれは監督の責務として、箱根駅伝で結果を残すことが一番の仕事ですが、そんなにうまくいくものではないので。

真也加 僕は「箱根駅伝入賞」という結果を出さないといけないから、プレッシャーもすごくあります。まずはチームを作り上げることから始めなければいけません。

渡辺 私も1年1年が勝負で、結果を出さないとダメですからね。常に結果を残し続けられるわけでありません。仮に優勝しても次の結果が悪ければすぐに忘れられる。常に勝ち続けないと評価されないですから、その辺りは難しいですね。

真也加監督「いつまでも昔のやり方をしてはダメ」

桜美林大の駅伝監督に就任したばかりの真也加監督。今後、自ら考えられる選手の育成を目指すという 【CSPark】

――真也加監督はケニアと日本の両方の練習法を熟知されています。日本人に足りない部分も把握していると思いますが、今後はケニアメソッドでチームを作っていくのでしょうか?

真也加 いや、ケニア流の教え方を押し付けていく気はありません。練習面でも立ち上げたばかりでゼロの状態なので、選手とコミュニケーションを取りながら、選手に合うものを作っていきます。タイム設定でも高いものを求めてもダメなので、彼らに合うものを作っていきます。

渡辺 われわれから見てかなり遅くても、自分の(現役時代の)記録を元に、選手のトレーニングを見るのはナンセンスですからね。

真也加 私が大切にしていることは、自分で考えられる選手を育てることです。練習では6割を教えるようにして、残りの4割は自分で考えさせます。そして「今の練習はどうだったか」「自分には何が足りないか」と答えを出させるようにしています。
 練習内容に関しても、まず取り入れてやってみる。やってみて、失敗したら「何がダメだったか」「どうすれば良いか」を判断していく。やってみないと分からないことですよね。これは日本全体に言えると思いますが、みんなチャレンジしないんです。まずはやってみて、その結果を見て次に進まないと。いつまでも昔のやり方をしてはダメです。

――渡辺監督が選手を育てる上で大切にしていることは?

渡辺 指導者として、軸をぶらさないことですね。指導者になって10年が経っていますが、そこはぶれていません。昨日言ったことを変えていたら、選手は付いてこないですからね。そして、しっかりと結果を出させてあげる。そうすることで選手も振り向いて信頼してくれます。
 あとは、成長させるために「達成できる目標設定をすること」「生活管理をすること」「自分のお手本となるモデルを作ること」「ライバルを作ること」「陽のオーラを持つこと」の5つを大切にしています。早稲田大の場合は、おかげさまで優秀な学生が多くて、10段階の5からスタートしている上、一度言えば分かる子が多い。初めのころは食事や睡眠、生活態度など自己管理できる選手は少ないのですが、3年生になれば言われたこと以外にも、おのずといろいろとできるようになります。

真也加 ライバルやお手本となる選手を見てトレーニングすることは大切ですね。ケニアでも、五輪選手だからといって特別にトレーニングをすることはないんです。みんな一緒にトレーニングしている。そうやって刺激を受けて強くなります。日本でもそういう環境を作るべきなんです。

渡辺 僕と真也加君がそうだったように、ライバルがいることは非常に大切です。ぼくは日本人に敵がいなかったので、真也加君というライバルがいたことは非常に良い刺激になっていました。

真也加 自分ばかり見ていてはダメなので、他の世界やライバルを見られるような視野を持ってもらえるようにしないといけないなと思います。

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