地域に浸透する環境活動への理解=奇跡の甲府再建・海野一幸会長 第7回

吉田誠一

「エコスタジアムプロジェクト」とは?

甲府が他のクラブに先駆けて進めてきた「エコスタジアムプロジェクト」。県民の環境活動への意識を高めている 【写真:ヴァンフォーレ甲府】

 ヴァンフォーレ甲府というクラブがJリーグの中で特異な存在であることは間違いない。他のクラブに先駆けて進めてきたことがいくつもある。2004年から本格的に取り組んでいる「エコスタジアムプロジェクト」もその一つだ。スタジアムでの飲食で出るゴミの削減に努め、排出する二酸化炭素(CO2)の削減、地球温暖化の防止に少なからず寄与している。

 いまや、山梨中銀スタジアム(甲府市小瀬)ではポリプロピレン製のリユースカップ(洗って繰り返し使えるカップ)の利用が当たり前になっている。観客は売店での飲料の代金に100円のデポジット代(紛失を補償するための預かり金)を上乗せして払い、飲み終えたら、返却所でカップを返して100円を受け取る。

 この仕組みは、リユース食器のレンタル事業を手掛けるNPO法人スペースふう(南巨摩郡富士川町)の全面的な協力で成り立っている。出店業者は必要なリユースカップを必要なだけスペースふうに発注して使用する。カップのレンタル料は1個25円だが、そのうち20円はクラブが負担している。といってもクラブの持ち出しではなく、その分はエコスポンサーからの協賛金で補っている。クラブの環境活動に協賛している企業は「エコパートナー」のはくばく、山梨中央銀行のほか、「エコサポーター」として10社が名を連ねる。

 この支援によって、現在26ある店舗の負担はリユースカップ1個あたり5円で済む。紙コップでも1個7、8円はかかるというから、実は割安だ。ちなみに現在はリユースカップの使用は出店の条件になっている。

03年からリユースカップを導入

 祭りやコンサートなど人が集まるイベントにはゴミが付きもので、サッカーの試合も例外ではない。紙コップやプラスチックなどの使い捨ての容器が大量に使われ、捨てられる。あふれるゴミを見れば、サッカーの試合が環境に優しいものでないことは明白だ。

 海野は「試合後にゴミの山ができるのを見るたびに、何とかしなくてはと思っていた」という。しかし、解決のための手立てを見いだしていなかった。近隣にスペースふうという存在がなかったら、甲府がここまで深く環境問題に取り組むことはなかったかもしれない。保坂悟・常務取締役(営業・事業本部長)は「スペースふうは我々の環境活動の強力なエンジン。活動を進めるうえでのパートナーに恵まれた」と話す。

 小瀬でのエコスタジアムプロジェクトの源をたどっていくと、03年にスペースふうの永井寛子理事長が小さな新聞記事を目にしたことにいきつく。その記事には、環境省によるモデル事業で大分トリニータがスタジアムでリユースカップを試験的に導入しているとあった。

 永井理事長はすぐに環境省に問い合わせ、直接話を聞きに足を運び、「甲府でもできないか」という思いに至った。何しろ、1999年創設のスペースふうは02年からリユース食器のレンタル事業(貸し出し、回収し、洗浄する)に乗り出しており、そのノウハウがあった。永井理事長は大分で使用しているベルギー製のリユースカップを手に、甲府のメインスポンサーの一つである食品会社、はくばくの長澤利久社長(現会長)を訪ねた。「こういうものを使って、甲府でも環境問題に取り組めないでしょうか」

 長澤社長はすぐに賛意を示し、当時の社長である海野に相談した。話はスムーズに進み、03年11月1日の川崎フロンターレ戦で試験的にリユースカップを導入することになった。クラブは公式サイトで「飲料用の紙コップを廃止し、環境に配慮したリユースカップを試験的に導入します」と告知。当時の1試合平均入場者数5597人から試算し、リユースカップを導入すれば年間で2万4626個の紙コップを削減できるという数字を示した。

 担当者の高野伸介・営業課長は「まだJ2で入場者が5000人台という時代で、出店者も少なかったのでやりやすかった。抵抗も大きな混乱もなかった」と振り返る。

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