地域に浸透する環境活動への理解=奇跡の甲府再建・海野一幸会長 第7回
際立つゴミの少なさ
リユースカップの使用による効果を大型ビジョンに表示。スタジアムの観戦者は環境問題への意識が自然に高まっていく 【写真:ヴァンフォーレ甲府】
07年からはカップだけでなく丼、皿、おわんなどリユース食器も一部で導入。09年、今ではアウエーサポーターにも人気のフードコートが場外にできると、またゴミが目立つようになったため、10年からリユース食器の本格導入に踏み込んだ。現在では11種類のリユース食器が用意されている。
また、場外に設置したエコブースで地元の環境団体が環境問題の啓発のための展示を行ったり、エコキッズがリユース食器の使用とゴミの分別回収への協力を呼びかけるバナーを持ってスタジアム内を一周する。試合前には1つ前のホームゲームでのリユースカップの使用でどれだけCO2が削減され、それが何本のスギの木による年間吸収量に当たるかを大型ビジョンで示す。こうした仕掛けによって、山梨中銀スタジアムの観戦者は環境問題への意識が自然に高まる。
実際、ゴミの量はどうなっているのかというと、12年に4度行われた計量によると1試合平均で約350キロ、1人当たり30グラムほどにとどまっているという。2年前に視察に訪れたモンテディオ山形の関係者によると、同じスタジアムの規模なのに1試合に1トンのゴミが出るというから、甲府のゴミの少なさが際立つ。
目指すところはゴミゼロ。かつては、マスコットのヴァンくんが「ゴミゼロ宣言」のプラカードを持って歩き、ゴミの持ち帰り用の袋を配布したこともある。しかし、「あまり締め付けを厳しくすると窮屈になり、お客さんに反発され、活動がパンクしてしまう。そうなっては元も子もない」と保坂は肝に銘じている。
かつて「ゴミはすべて持ち帰ってください」とお願いし、ゴミ箱をふさいだことがあったが、周辺のコンビニなどに捨てていく観客が増え、クレームが出た。高野は「サッカーの試合を楽しんでもらうのが第一で、お客さんに不愉快な思いをさせてはいけない。観戦者へのサービスという意味で、ある程度のゴミの回収は必要」という。
甲府の絶大な発信力と影響力
そうしたことを踏まえて、保坂は環境問題への取り組み方についてこう考えている。「お客さんにすべてを押しつけるのではなく、じわじわと水が染み込むようにしていきたい。自分で納得してもらったうえで実践してもらい、リユース食器の利用やゴミの持ち帰りを繰り返していくうちに、それが当たり前になり、苦でなくなり、日々の生活においてもエコへの意識が高まるというのがいい」
幸い観戦者の反応はいい。スペースふうによると、大学生が卒論のためにアンケートをした結果、リユースカップの使用について99パーセントが「賛成」だったという。「日常生活においても環境活動に関心を持ったか」の問いには72パーセントが「はい」と答え、「他のスタジアムでもリユースカップを導入すべきか」にも90パーセントが肯定している。
地域に根ざした甲府というクラブの発信力、地元住民への影響力は計り知れない。住民が愛するクラブが環境問題に積極的に取り組むことが、啓発につながるのは明らかだ。Jクラブはそうした役割、機能を帯びている。
永井理事長はクラブの力に感謝し、こんな話をする。「アウエーのサポーターに『このスタジアムはきれいだ』と言われることが誇りに思える、地元のクラブがこういう活動に取り組んでいることが誇りに思える、と言っている人がたくさんいるんです。このスタジアムが山梨の環境活動のシンボルになっている。それはやはりクラブの影響力が大きいからでしょう」。山梨はリユース食器の使用率が圧倒的に高い県だという話にも納得がいく。
もちろん、一連の活動はクラブとスペースふうだけでなく、売店の出店業者やエコスポンサーの理解のもとで成立している。そうした支えのもと、環境に配慮した活動を推進することによって、県外からの注目も集まり、町の人々が誇りを感じ、クラブへの支持や愛着が増し、その価値がまた高まる。
<第8回へ続く>
(協力:Jリーグ)