『戦える状態』でなかった男子バレー=5戦全敗で問われる『全日本代表』の意味
『世界の当たり前』を取り入れたが、間に合わず……
ベテランの松本もサトウ監督の指導を取り入れているが、まだ100%慣れている状態ではない 【坂本清】
今年4月、全日本史上初の外国人監督となるゲーリー・サトウが就任して以来、全日本男子は「選手自らが考えて動くスマートなバレーボール」を目標に掲げ合宿をくり返してきた。
特に大きく変わったのが戦術である。前、後衛4名のアタッカーが一斉に助走に入り、相手のブロックシステムが完成する前に攻撃を仕掛ける。世界の強豪国では当たり前に行われている攻撃戦術だ。
アタッカーが素早く助走に入るためには、サーブレシーブで体勢を崩されないことが必要になる。同時に、ミドルブロッカーの動作も大きく変わった。日本では「クイックは短い助走で、コンパクトなスイングで打て」と指導されるが、ゲーリー監督からは助走距離を長く取り、しっかりと腕を振って打つことが要求された。ミドルブロッカーはブロックに跳んだあと、助走距離を確保するために即座に後方に下がる。こうして細かい動作のひとつひとつを修正して臨んだのが、このグランドチャンピオンズカップだった。
ミドルブロッカーの松本慶彦は語った。
「僕は開幕直前の練習試合で、やっとゲーム中、フォームや助走のことを意識せずにプレーできる段階になりました。ただ、それも、ひとつミスが出ると余裕がなくなって、自分のプレーのことで精いっぱいになってしまう。周りで戦っている選手に気を配る余裕がなくなって、誰も試合の流れを変えられない。今大会、ブラジルとの2セット目、競りましたよね? あのセットくらいチームがうまく回って、ああいう攻撃ができると確認できたことが、今の僕たちにとっては前進だと思います」
現段階では米国から1セットを奪い、ブラジルと1セット競るのが精いっぱいだった。
「リオに向けもがいている最中」も見えない構想
福澤は言う。「僕たちはリオに向けて、もがいている最中」 【坂本清】
「今大会の結果は100%、わたしの責任です。しかし、就任してからのこの半年でベースは作れたと思う。あとは更に上達するための練習を積みたい。初年度である今年は(監督就任の決定が遅れたため)選手の選考に制限があった。これからVリーグや大学、高校などの試合を見て自ら新しい選手を発掘したいし、そういう選手が全日本に参加してくれればもっといいチームが作れるんじゃないかと思います」
具体的な強化策を尋ねると、試合における戦略には一切触れず、テクニックの向上に話は終始した。選手を入れ替えただけで果たして強化は進むのか。監督が思い描く構想が、残念ながら明確には伝わってこなかった。
世界のスタンダードを取り入れることはもちろん重要である。むしろ取り入れるのが遅かったせいで、選手がこうして苦労しているとも言える。しかし世界のスタンダードに近づくためとはいえ、このままゲーリー監督に全日本を任せて大丈夫なのか。
全敗で終えた今大会の結果を受け、大会終了後には桑田美仁強化委員会GMの会見が行われた。
「日本のバレーと米国のバレーの融合を目指してやってきましたが、完成したかと聞かれれば、まだ完成していないと言わざるを得ません。来年も方向性に変わりはありません。対外試合などを増やし、大学生などの若い選手も呼んで強化したいと考えています。ぜひ長い目で見ていただきたい」(桑田GM)
今大会、不振にあえいだ福澤達哉は最後にこう言った。
「ロンドンオリンピックの出場権を逃し、何かを変えなければいけないという危機感から、協会は外国人監督を招へいし僕らも新しいことにチャレンジしてきました。最初は違和感があったスパイクの打ち方も、今大会、各国のアタッカーが皆、ゲーリーさんの言う打ち方で打っているのを見て、自分たちがやっていることが世界のスタンダードなんだと実感しました。見ている人からは『どうしたんだ、日本バレー?』と思われるかもしれませんが、僕たちはリオに向けてもがいている最中です」
全日本は育てる場所ではなく、戦いの場
サトウ体制になり、まだ時間は短い。しかし、「戦えない全日本代表」でよいのだろうか? 【坂本清】
しかし、それを踏まえた上で言う。全日本は選手を育てる場所ではなく、戦いの場だ。その本質を見る側もプレーする側も決して忘れてはならない。
<了>