体操・コナミが見せた団体戦の勝ち方=世界を勝ち取る前提は“全員ノーミス”

矢内由美子

全日本体操団体で圧勝したコナミから学ぶ“団体戦の勝ち方”とは? 【榊原嘉徳】

 最後の鉄棒の演技は圧巻だった。マットに両足がピタリと吸い付く完璧な着地を決めると、内村航平は気持ち良さそうに両手の拳を突き上げた。

 11月3日に千葉・幕張メッセで行われた体操の全日本団体選手権。男子は世界チャンピオンの内村を擁するコナミが、2位の日本体育大に5.3点という大差をつける271.150点で圧勝。昨年、加藤凌平の率いる順天堂大に奪われた優勝を、2年ぶりに奪還した。

中国打破目指し、スペシャリスト育成に着手

 全日本団体選手権では、各チーム6選手から種目ごとに3人の選手が演技し、3人×6種目の合計点で競われる(6−3−3)。全18演技を通じて一つの落下もない「ノーミスV」に、エースは満足そうな笑みを浮かべた。

 2012年ロンドン五輪の男子団体総合で銀メダルに終わった日本。06年以降、五輪と世界選手権を合わせて6大会連続で後塵(こうじん)を拝している中国を破るため、これまでの“オールラウンダー重視”という方針から、今年は種目別のスペシャリスト育成にも力を入れ始めた。

 新たな試みは、10月にベルギー・アントワープで行われた世界選手権で早くも成果を見せる。ゆかと跳馬に白井健三(神奈川・岸根高)、あん馬に亀山耕平(徳洲会)というスペシャリストを送り込み、ゆかで白井、あん馬で亀山が金メダルを獲得したのだ。今回は新たな潮流が見えてきたタイミングでの全日本団体戦だった。

注目すべきは「18演技で大過失なし」

 その流れを踏まえた上で、今回のコナミが見せた“団体戦の勝ち方”で、世界舞台に生かされるべき点は何だろうか。

 まず特筆されるのは、前述の通り、18演技で一つも大きな過失がなかったということだ。
 11年世界選手権で、日本チームの主将を務めた小林研也(コナミ主将)が言う。
「6−3−3では、落下が一つでも出るとそれが結果に響いてしまう。中国は、小さなミスはあっても、ほとんど落下しない。反対に日本は、落下が1つ2つあって中国に負けてきたというパターンが多い。今回のコナミは、1種目1種目、1演技ごとに大きなミスがないように、全員が落下しないことを意識して演技したことが、優勝という結果につながった。やはり一人一人がミスなく演技をしていかないと、世界選手権、五輪で金メダルを取ることはできないと思う」

 内村は、「コナミの実力なら、一つの大過失だったら巻き返せるとは思っていた。ただ、今回は予想以上にミスがなかった。世界選手権や五輪の中国のような戦い方ができていたと思う」と力を込めた。

 チームとして“ノーミス”であることに対して、どれほどのこだわりがあったのか。日本代表コーチも務める、コナミの森泉貴博コーチはこう説明する。
「コーチとして参加した04年のアテネ五輪で、日本が金メダルを取ったのを最後に、コナミでも全日本でも、6−3−3や5−3−3で『18演技ノーミス』を達成したことはなかった。いつも何か、1つ2つの失敗があった。だから、今回はチームとして、18演技をノーミスでやることを目標にしていたし、それができたから優勝できたのだと思う。世界ではノーミスでやって初めて、争いの土俵に上がれる。大技を成功させるとか、相手の失敗を待つのではなく、自分たちがきれいにそろえてから点数や順位を見るべき」

 つまり、コナミはチームとしてミスをしないことが、世界を勝ち取る上での前提になるということを意識しながら全日本選手権を戦い、勝った。そのことをしっかりと認識してこそ、スペシャリストをチームにどのように加えていくかの方向性が見えてくる。

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著者プロフィール

北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)

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