ロシア修行で成長、新体操期待のつぼみ=早川さくら、皆川夏穂の可能性

椎名桂子

ロシア留学中の2人が見せた成長

新体操界期待の早川さくら(写真)と皆川夏穂は、ロシア長期留学の成果を感じさせる演技を見せた 【榊原嘉徳】

 五輪翌年ということで世代交代が進み、新顔が多く見られた新体操のイオンカップ世界クラブ選手権(25日〜27日、東京)。クラブ対抗戦はガズプロム(ロシア)が13連覇、シニア個人総合は世界選手権女王のヤナ・クドリャフツェワ(ロシア)が優勝という順当な結果となった。

 日本から出場した3チームは、町田RGが10位、安達新体操クラブが9位、日本のトップチームでもあるイオンは4位と健闘した。中でもイオンのシニア選手として出場した早川さくら(シニア個人総合9位)、皆川夏穂(同10位)は、ミスのなかった種目では17点台に乗せる躍進を見せ、今年3月からのロシア長期留学の成果を十分に感じさせた。

 実は、2人はこの1週間前に行われた全日本ジュニア選手権のエキシビションで演技を披露しているが、このときはミスの目立つ演技となってしまった。確かにロシア留学を経て、難度の高さや粘りが向上し、海外の選手にも見劣りのしない、ダイナミックな動き、カウントしやすい難度は見せられるようになっていた。しかし、現行ルールでは手具操作も多くのリスクを伴うため、余裕がなく、ミスも出やすい。1週間前の2人の演技は、そう映った。

 しかし、このイオンカップに向けて、十分な練習と調整を行ってきたのだろう。大会2日目に登場した早川と皆川の演技に目立ったミスはなく、ジャンプ中の開脚度やピボットの回転数など、海外のトップ選手にも劣らないだけのものを披露した。顕著だったのは、手具に対する執着心が向上したことだ。細かいミスはあっても、その対処が格段にうまくなり、気が抜けたようなミスをしなくなった。結果、ミスのない演技ならば17点台は出せる力があることを証明した。

 もっとも、現時点では、それが海外での試合で発揮できておらず、イオンカップというホームでの試合だったからできた、という面は否めない。それでも「できうる最高のもの」は、確実にレベルアップしている。あとはその力をどう発揮するか。そこはこれから積み重ねていく経験できっとクリアできるだろう。今大会での成功体験も大きな糧になるに違いない。

世界トップ10を狙うには「表現力」に課題

 世界トップクラスの選手が集まった今大会を見渡しても、早川、皆川のスタイルはバランスが良く、目を引くものがあった。そこに、身体能力、手具操作などの技術が強化されたのだから、世界で戦える準備は十分整ってきている。課題を挙げるとすれば、今年から導入されたルールで重きが置かれている「表現力」か。

 トップ選手たちは、難度の高い演技や操作をこなしながらも、表情はもちろん、体の隅々を駆使して曲や世界観を表現している。今大会、会場を沸かせたラーラ・ユシーフォワ(アゼルバイジャン)のボール「ライムライト」や、アンナ・リザディノワ(ウクライナ)のボール「ビリージーン」などは、スポーツの域を超えたとも言われている。こうした名作が生まれている昨今の新体操で、世界のトップ10入りを目指すには、やはり表現力は必須だ。

 なんとか戦う準備が整ってきた、という状況の2人に、あれもこれもと要求するのは酷かもしれないが、「大いなる期待」を込めて言わせてもらおう。今後は表現力にもさらに磨きをかけ、本番での強さを身につけてほしい。来シーズンは海外の大会で旋風を巻き起こすことを望みたい。これは決して夢物語ではないはずだ。実現可能であるということは、今大会で証明してみせたのだから。

相乗効果でさらなる飛躍を

 ロシアでの長期合宿という、想像するだけでも過酷な日々について、2人は記者会見でまったく同じような発言をしている。「試合ではお互いライバルだけど、ロシアでは助け合ってやっている」と。おそらく、それは本音なのだろう。
 大会2日目、ノーミスでまとめたときの2人の得点は、くしくもまったくの同点(2種目合計34.350)だった。ロシアでよく注意されていることには、「より表現して、感情を出して」(早川)、「顔の表情だけでなく、演技全体で曲を表現できるように」(皆川)と、やはり表現面での課題を挙げた。

 能力の面でも、課題の面でも、まさに切磋琢磨(せっさたくま)するにふさわしい互角の力を持った選手が、「1人ではなく2人」ともに強化対象となっていることが、もしかしたら、彼女たちの最大の強みなのかもしれない。
 
 決勝進出の懸かった3日目・準決勝では、2人ともミスが出てしまい、個人総合成績も早川が9位、皆川が10位と前日よりも下がってしまった。やはり、経験不足な面もあり、コンスタントに力を出し切ることは、まだ難しいようだ。

 早川さくらと皆川夏穂――。この2人は、日本が世界から取り残されつつあった「新体操個人」にやっと咲きつつある花の、まだ小さなつぼみだ。
 おそらく、そう遠くないうちに開花するだろう。その花が見られるときまで、温かく見守っていきたいと思う。彼女たちなら、きっと「待ったかいがあった」思える花を咲かせてくれるだろう。

<了>
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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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