ベスト8越えへ、進化続けるU−17日本=吉武サッカーを体現し、世界を驚かす

安藤隆人

グループリーグ突破は“当然の目標”

終了間際の逆転劇に歓喜するU−17日本代表の選手たち。3戦全勝で決勝トーナメント進出を果たした 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 まずは最低限の目標をクリアしたと言えよう。UAEで行われているサッカーのU−17ワールドカップ。U−17日本代表(96ジャパン)はグループリーグ第3戦でU−17チュニジア代表を2−1で破り、3戦全勝で決勝トーナメント進出を果たした。もし、前回大会であれば、グループリーグを突破した段階で、高い評価をしていただろう。しかし、もはや96ジャパンにおいて、グループリーグ突破は“当然の目標”であり、ベスト8に行った前回越えをしない限り、喜べるような結果にはならない。

 ロシア、ベネズエラ、チュニジアと戦ったグループリーグ。ロシアは守備に強みがあったが、攻撃はウィークポイントだった。ベネズエラは攻撃力こそ高かったが、守備力は高くなかった。チュニジアはカウンターが3チームの中で強烈なチームだった。

 初戦のロシア戦。吉武博文監督はロシアの高さ対策として、190センチのGK白岡ティモシィと、アンカーに181センチのMF三竿健斗を配置したものの、それは決して相手と同じ土俵で戦うためではなかった。あくまで相手のストロングポイントで勝負をさせず、徹底した地上戦に持ち込んで、いかにチャンスをモノにできるかにあった。

「高さに負けないコンパクトなサッカーができれば。ロシアは堅守速攻型なので、欧州選手権は5試合で1失点。得点もそんなに取っていないので、我々がじれずに攻めることができるか。0−0でも悪いとは思っていない」(吉武監督)

 面白かったのが、ロシア戦前日のプレスカンファレンス。海外メディアから日本のシステムや戦い方について、具体的な質問があった。通常なら手の内を隠すために、上っ面な部分を語るのだが、吉武監督は「ウチは4−1−2−3で、攻撃時は……」などと細かく語り始めた。会見後に真意を聞くと、「時間があれば4−2−2−2になるとか、いろいろ言おうと思ったのですが(笑)。オープンですよ。この年代は今さら手の内を隠したり、変えたりしても仕方がないので」と胸のすくような答えが返ってきた。それくらい立ち上げ時からコツコツとブレない信念で作り上げてきたチームに絶対の自信を持ち、これまでやってきたことを否定するようなサッカーをしないという、強い意志が見えた。

吉武監督が選手たちに求めているもの

 ロシア戦はその通り、相手のストロングポイントで勝負をさせず、1−0の勝利。しかし、試合内容に関しては物足りなさが残った。90分を通して無失点に抑えたが、ゴールは15分の瓜生昂生のミドルシュートのみ。後半は思うようにチャンスが作れなかった。「ロシアは4−2−3−1システムで組みやすい相手だったので、もっと押し込めたと思う。でも、相手のDFラインが浅かったのを、選手たちはなかなか見ることができなかった。もっと背後のスペースを狙わないといけない。悪かった時間帯はそこを狙えず、逆にやられていた」と、吉武監督は不満を漏らした。

 吉武監督が選手たちに求めているのは、「ハイアングルの俯瞰図」だ。そして、それが成長の尺度となっている。

 例えば、攻撃面での課題でよく「決定力不足」が挙げられる。しかし、吉武監督にとってそれはシュートを決めきる、ラストパスの質を上げるという断片的なものではない。あくまでアタッキングサードでも相手をしっかりと見て、相手のいないところに仕掛けられるか。敵と味方の位置関係、身体の向き、有効活用できるスペースがどこかを、ハイプレッシャーなこのエリアでいかに見極めて、味方と動きを共鳴させ、ゴールに直結させることができるか。吉武監督は選手の主観と主体性を求めるが、それはつまり個の判断の質の向上を、繰り返し求めていることとイコールなのだ。これこそが吉武監督が目指すサッカーの根本にある。その観点からすると、ロシア戦は不満が大きく残ったということだ。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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