ベスト8越えへ、進化続けるU−17日本=吉武サッカーを体現し、世界を驚かす
“相手を見る”ことができたチュニジア戦
吉武監督(写真)が求めているのは主体性。選手たちは着実に成長しているが現状には満足していないようだ 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】
「ベネズエラは攻撃のチーム。攻撃のチームということは、守備に隙がある。そういう相手に点を取りきれなかった。相手の守備がどうなっているかを見て判断できなかった。また課題が出たかなと思います」(吉武監督)。
そして、決勝トーナメント進出が決まった状態でのチュニジア戦。ここでもメンバーを大幅に代え、メンバー21人を全員先発起用させたが、この試合は過去2試合の反省を踏まえ、“相手を見る”ことができた試合だった。
DFラインに三好康児、中野雅臣、鈴木徳真、会津雄生といった、本来DFではない選手を並べたのも、「試合前からビデオで分析をして、DFラインでボールを回せる機会が多くなると言われていたので、試合中でも相手を見て意識してプレーした」と鈴木が語ったように、最終ラインから攻撃的にボールを回すことで、「各チームでは攻撃の中心選手である彼らを並べ、ボールを相手に渡さないことで、守備力を目立たせない」という吉武監督の狙いがあったからこそ。先制こそ許したが、最後まで全体でボールを保持し続け、相手の体力を奪っていく。
「相手の足が止まってきて、自分のところはノープレッシャーだったので、いかに自分のところにボールが入った時にテンポを上げられるかを意識して、ワンタッチのパスをしました」(三竿)
「自分たちがボールを回している時間が長くて、相手も疲れて足をつっている選手が多かったので、ラストで点が決まるようなイメージがあった」(FW杉本太郎)
「ボールを保持しているとき、相手の選手の何人かが足をつってきていたので、絶対に回し続ければチャンスがあると思っていた」(DF坂井大将)
相手が消耗しきった瞬間を見逃さず、87分に杉本のパスを坂井が決め、アディショナルタイムには三竿が起点となり、FW渡辺凌磨が逆転ゴールを決めた。しっかりと相手を見て、隙を作りだし、一気に勝負所でひっくり返す。見事な戦いぶりだった。
決勝トーナメントは「進化していく過程」
「僕がやってほしいのは、『相手の心まで読んでほしい』ということ。相手が今困っているのか、困っていないのか? できることなら、相手のベンチの様子も見られるようになってほしい。そういう部分が今のうちからできないと、フル代表につながっていかない。フル代表でそれをやっていたら遅い。せっかくこういう世界大会という機会があるのだから、それを生かさないといけない。今後、相手の質はもっと上がってくる。ロシアの守備と、ベネズエラの攻撃、カウンターが一緒になったようなチームばかりが相手になる。まだまだ先がある選手たちなので、もっと上を目指してほしい」
決勝トーナメントは単純に優勝を狙っていくうえでの過程ではなく、「進化していく過程」である。相手のレベルがどんどん上がっていく中で、96ジャパンの選手たちはどこまで吉武サッカーを体現し、自分たちの主体性を表現できるか。
「前回のメキシコ大会ベスト8という成績を一つでも越えたいと思っていたので、決勝トーナメント進出でようやくまな板の上に乗った。これからです」(吉武監督)
ベスト8越えへ。96ジャパンの進化はまっすぐに世界の階段を駆け上がっていこうとしている。
<了>