アマNo.1投手、吉田一将のブレない強さ=高校の悔しさバネに身につけた“制球力”

中島大輔

投球フォーム改造で輝き始めた社会人時代

いまは野球をすることが「本当に楽しい」と語る吉田。高校時代にケガで投げられなかった分、投げられる喜びが染み渡った 【スポーツナビ】

「今のままではプロで通用しない」。危機感を抱いて社会人野球の門をたたいた吉田は、入社してすぐ、山本浩司コーチに「テイクバックを小さくし、背が高いんだから上から投げ下ろしたほうがいいんじゃないか?」と投球フォーム改造を打診される。腕の位置を上げると球速が146キロまでアップし、球威も格段に増した。
 気持ち良く投げられるフォームを手にした吉田は、水を得た魚のように輝き始めた。6月のJABA北海道大会で好投すると、堀井監督は主力として起用することを決断する。7月の都市対抗野球では初戦の当日朝まで、先発を戸田亮(現オリックス)にするか、吉田を抜てきするか迷ったが、新人右腕に託した。「戸田は試合が始まってみないと、コントロールを含めて分からない。でも、吉田は試合を壊さない」ことが理由だった。指揮官の期待に吉田は応え、チームを決勝まで導いた。

 大学よりレベルの上がる社会人野球で、吉田はとにかく前向きに取り組んだ。過去にケガでつまずいた分、投げられる喜びが身に染み渡った。
「何不自由なく投げて、ある程度の結果も出て、というのが本当に楽しい。好きなことをやれている感覚があるので、自ずと練習しようと思います。大学までも練習はしてきましたけど、JR東日本に来てから結果が出ているので、さらにやろうと思いますね」

勝てる投手になるために――

 社会人でとりわけ磨きをかけたのは、持ち前のコントロールだ。地道に筋力トレーニングを続け、体幹を鍛えた。普段の練習では、理想のフォームを意識しながら投げ込んでいる。
「高校のときからアウトローのコントロールが必要なのは重々分かっているんですけど、そうかと言って投げられていたわけではなかったと思います。大学に入ってから、特にコントロールを意識するようになりました。社会人では、ピッチングをもっと細かく考えるようになりましたね」

 例えば抜けたボールを投げた後は、どこを意識すれば修正できるかと試行錯誤を繰り返す。悪かった点が分からなければ、また同じ過ちを繰り返してしまうからだ。無意識で良いボールを放れたとしても、理由が分からなければ同じ球を投げられない。吉田は勝てるピッチャーになるため、使える引き出しを普段の練習から探していった。ブレないメンタルを持つ男はそうして技術を磨き、「高い安定感」と評されるまでになった。

揺るぎない武器を携え、プロの世界へ

吉田のプロでの目標は「少しでも長く現役生活を続けること」。いよいよ運命の日が近づいてきた 【スポーツナビ】

 コントロール、球威ともにレベルアップを果たした吉田は、今年の都市対抗でもチームを決勝まで導いた。優勝を懸けた一戦こそ相手の打球を受け2回途中で降板したが、3試合で19回を投げて自責点は1、奪った三振は23。高校、大学と陽の目を浴びなかった右腕は、この2年間でアマチュアナンバーワン右腕の評価を確固たるものにしていた。

 そして、運命の日まであと2日。スポットライトの下で思い出すのは、ケガに悩まされた日々だ。
「高校のときは、一番苦しい時期でした。でも、あきらめずに野球を続けて良かった。もしエースとして投げていたら、たぶん今の気持ちにはなってなかったでしょうね。負けた悔しさより、何もできなかった悔しさのほうが強かったので……」
 来年迎える新天地での目標は、少しでも長く現役生活を続けることだという。
「今年は1年間ケガなくやって、ホントに投げる体力がついたと実感しています。ピッチャーとして投げる体力は、投げていかないとつきません。だからケガせず先発ローテーションを守って、1年でも長くやりたい。長い野球人生、現役生活にしたいですね」

 高校時代にケガで悔しい思いをしたからこそ、乗り越えられた壁がある。そうして自分をコントロールし、ボールをコントロールできるようになった。
 他者がマネできない方法で身につけた、ブレない制球力――吉田は揺るぎない武器を携え、プロの世界に挑戦する。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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